第133話 イヴの夜(1)

なぜ

彼女がここにいるのか。


そんな疑問が渦巻くが。


そんなことも言っていられないほど、夏希は具合が悪そうだった。


彼女を支えるように、部屋に連れて行く。


「風邪、引いたの?」


と声を掛けたが、


「え・・」


もう普通に答えることさえもしんどそうだった。



「とにかく、ここに寝て。」


高宮は自分のベッドに彼女を寝かせた。


体温計の用意もなく、熱を測ることもできない。


「とりあえず。 今、コンビニで氷を買ってくるから。 飲み物も。 あと、体温計か・・」


高宮の声が遠くに聞こえる。


ベッドに眠り込んだ夏希は


さっき


抱きしめられた時と同じ匂いだ。


高宮さんの…。


ぐるぐる回る頭の中でそんな風に思っていた。


自分の行動に自分も理解ができず、挙句の果てに熱を出して倒れてる今の自分。


もう


いろんなことが頭の中を駆け巡っていた。


高宮が戻ってくると、夏希は苦しそうに眠り込んでいた。



こんなに具合が悪いのに


ここまで来てくれた。



そう思うだけで、胸がいっぱいだった。


東京へ戻ることに罪悪感を感じて、なかなか決断できなかったけど。


こうして


彼女に会ってしまうと。


やっぱり


一緒にいたいって思ってしまう。



「ん…」



苦しそうに胸元に手をやる。


そっと彼女のシャツのボタンを外してやると、3つ目のボタンを外した時に彼女の胸の裾野と下着が見えてしまい、ドキンとして慌てて掛け布団を掛けた。


ベッドからだらりと垂れ下がった手をそっと握った。


髪が伸びたな


3ヶ月間という時間を感じた。


彼女の手を握って自分の額に押し当てる。


ほんっと


会いたかった。


初めての土地で


混乱していた仕事をひとつひとつやり終えて。


毎日、遅くまで仕事をし。


慣れない酒にもつきあって。


もう


へこたれそうになることもあったけど。


そんなときはいつも


彼女のことを思った。




どのくらい眠ったのだろうか。


夏希はぼーっと目を開けた。


ここ・・。


見慣れぬ天井をしばらく見つめた。



そっか


あたし


高宮さんのところに来ちゃったんだ。



その事情を飲み込むまで時間がかかった。



熱い…。

のど・・渇いた・・。



のそっと起き上がったが、頭がフラフラしてベッドから降りようとしたところで何かを踏んずけた。



「いっ・・!!!」


「わっ・・」


夏希はその"物体"に躓いて倒れこんだ。


「・・い…っで・・」


ベッドの下で寝ていた高宮は思いっきりお腹をふんずけられてのた打ち回っていた。


「た、高宮さん…」


もう声がガラガラでほとんど出なかった。


「腹が…」


「ご、ごめんなさい…」


もう


夜も白々と明け始めていた。


「どうしたの? トイレ?」


高宮は起き上がる。


「え…あっと、」


夏希はふっと自分の胸元を見て、服が思いっきり肌蹴ているのに気づき、


「・・きゃーっ!!」


びっくりして慌てて手で押さえた。


パニくる彼女に、


「や! ち、違う! なんもしてないから! 苦しそうだったから!」


やはりパニくって否定した。


夏希は思わず出てしまった自分の『キャー!』という悲鳴に驚いた。


自分がこんな声を出せるということに。



「ね、熱は・・」


高宮は慌てて彼女の額に触れた。


「まだ、あるよ。 待ってて、今、水を持ってくるから、」


起き上がって冷蔵庫からペットボトルの水を持ってきた。


「はい、」


「・・あ、ありがとう、ございます・・」


夏希は手を伸ばしてそれを受け取ろうとした時、彼と手が触れてしまってドキンと心臓が音を立てた。


びっくりしてペットボトルを落としてしまった。


その瞬間


高宮は彼女の手をぎゅっと握って、力強く引き寄せた。


え…。


そして


抱きしめられた。

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