第121話 2時間半(2)

12月に入り


街は早くもクリスマスシーズンを匂わせて。


仕事柄、一番忙しい季節になった。


仕事以外にも、忘年会シーズンで、夏希は初めてそんな場所につれていってもらったりすることも楽しくて仕方がなかった。


「おまえ、体力あるな~。 昨日もすんげえ遅くなったのに。」


一緒に得意先の忘年会に行った八神はもう酒が残って、ヘロヘロだった。


「あ~、もう3、4時間寝れば、チャージOKですから! んじゃ、外出行ってきまーす!」


夏希はすこぶる元気だった。


「年の差だよ、年の差。」


南は対照的な二人を見て笑った。




しかし


大阪の高宮は


日に日に疲れが増していた。


東京で常務の秘書としていたころよりも、格段につきあいが増え。


あまり酒が強くない彼にとっては、地獄だった。


それじゃなくても


東京から来たってだけで


それだけで肴にされるって言うのに。


「具合、悪いんですか?」


理沙が心配をして熱いお茶を淹れて来た。



「二日酔い。 ほんっと、もう強引に飲ませるから…」


さすがにデスクに突っ伏してしまった。


「お薬をもらってきましょうか、」


「ん、お願い・・」




そんな彼に追い討ちを掛けるように


「なあ、・・知ってるか?」


取締役の畠山がニヤニヤしながら、休憩室でぼーっとタバコを吸っていた高宮に近づいた。


「はい・・?」



この人


50過ぎてんのに。


女好きで有名で。



シロウトのくせにバツ2だって話だし。


年よりは若く見えるけど。もう、ギラギラしちゃってるし。


ほんっと


怪しいったら。



「どうも住田支社長の経過、良くないらしいねん、」


彼は思わせぶりにそう言った。


「え、」


「手術は成功したんやけどな。 1ヶ月入院して今、自宅療養してはるけど。 体力がめっきり落ちてしまったらしくて。 この前、総務部長が見舞いに行ったらな。 めっちゃ、弱気になってはるて。 もう仕事でけへんかもしれへんて。」


支社長が?


高宮は吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。


「そうなると。 このまま芦田さんが支社長になる可能性、大やな。」


彼はまたギラギラした目で笑った。



「したら、おまえ・・帰れへんやん、」


うっれしそうに。


他人事なのに。


何が言いたいんだっつーの!



そう彼につっこみたかったが。



ひょっとしたらこのまま帰れない?



そっちの方が気にかかって。


一気に不安が心の中までいっぱいになる。


本当なんだろうか。


高宮は気になって仕方がなかった。


芦田に確かめたかったが


多忙な彼を煩わすようなことはしたくない。



「あの、今日のHTVの社長との懇談なんですけど、」


理沙がいつものように遠慮がちにやってくる。


「え?」


ぼーっとしていた高宮はハッとして彼女を見た。


「やっぱり私一人では。 高宮さんがいて下さると、相手方の信用も違う、と言うか・・」


うつむいてモジモジしながら言う彼女を見ていると


あまりここへ来たばかりのころと変わっていないような気もするし。


頑張ってはいるけれど


性格なのだろうか


なかなか自信を持って仕事ができない。


高宮はふと微笑んで、


「わかった。 一緒に行くから、」


と優しくそう言った。


おれだって


あと4ヶ月ほどで、彼女一人に任せて東京に戻れる自信、


そんなにない。



彼女を見ていると


心配で放っておけなくなる。


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