第99話 北都家の秘密(2)

なんかホテルの中みたい…


夏希はその家の中の豪華さにも目を奪われた。


南と真太郎の世帯は4階までエレベーターで行ったそこにあった。


家の中にエレベーターって。


そこにも驚いて。


南が食事の仕度をするのを手伝っていると、


「私もお手伝いします。」

絵梨沙もやって来た。


彼女が包丁を手にするのを見て、

「ぴ、ピアニストの方もお料理をするんですか、」

少し驚いて聞いてしまった。


また、彼女は美しい微笑を見せて、

「普通にします。 主婦ですから、」

と言った。


「エリちゃんは正直、真尋よりもすごいピアニストなんやけど。 有名な海外のコンクールで優勝したり。 でも、真尋と結婚してからは、自分のほうはもう休業状態で、彼について海外に行ったり。 めっちゃ尽くしてくれてんねん、」

南が説明する。


「真尋は私より何十倍も才能があって。 そばで彼のピアノを聴いていたいから。」

絵梨沙は恥ずかしそうに言う。


「真尋は"無冠の帝王"でね、」

南の言葉に、


「ムカンノテイオウって・・なんですか? 競走馬みたいな。」

夏希が真面目に言うと、南は笑って、


「だから。 コンクールでさしたる成績も残してないの。 ウイーンではわりと有名なオケとも競演したりな。 ま、知る人ぞ知る、天才ピアニスト、やねん。」

と言った。


「へええええ。」


あの人が。


たいやきをまるで猛獣のように食べていたあの人が。


心底感心してしまった。


「今はウイーンと日本を行ったり来たりの生活でな。 ま、その他の国にも演奏旅行に行くし。 その間は二人の子供をウチで夜は預かってるねん。 昼間はシッターさんがいるけど。」


そこへ、


「な~、メシまだ~?」

真尋が子供たちと一緒にやって来た。


「もうちょっとやから、子供たちの面倒見て待ってて。」

子供に言うように南が言うと、


「あ! 昼間のタイヤキ女!」

いきなり夏希を指差した。


ドキっとして、


「や…あ~、その節は…」

しどろもどろになると、


「ちょっと、なんでこいつがいるんだよっ、」

真尋はまだそのことを恨んでいるようだった。


「真尋、失礼よ。そんな、」

絵梨沙がたしなめた。


「こいつ、おれのタイヤキを1個無断で食ったんだっ!」

また思いっきり指を指された。


「もう、タイヤキくらい。」

絵梨沙は大きなため息をついた。


「ほんま食べ物に対しての執着心はすごいな、」

南は笑った。



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