第98話 北都家の秘密(1)

すると南は急に思いついて、


「ね、これからウチに来ない?」


いきなりの誘いをかけた。


「は、」


「真尋も帰ってきたし。 みんなでゴハン食べよう、」


ちょっと待って!

南さんちって。


社長んちじゃないですか!


鈍い彼女でも一瞬でそれに気づいた。



「や、そんな、いきなり…」

やんわりと断ろうと思ったが、


「大丈夫、大丈夫! いちおう社長んとことおんなじとこやけど。 ウチのこと色々説明してあげたいし。」


説明って。


何の説明?


「そっかあ、じゃ、今日の晩御飯はあたしが作っちゃおうかな~!」

夏希の戸惑いをよそに南はどんどん突っ走っていく。


すっごい。

お屋敷(?)


初めて訪れた北都邸は夏希の想像を絶するものだった。


大きく言えば

広い庭のある、ビル?

みたいな。


南に連れられて、周りをキョロキョロしながら夏希は豪邸に入っていった。

大きな玄関を開けて入っていくと、


「あ! みーちゃん! おかえり!」

男の子が走ってきた。


「ただいま~! いい子にしてた?」

南はその子を抱きとめるようにそう言った。


すると後ろからもっと小さな女の子もやって来て、

「みーちゃん、」

と一緒に抱きついた。


え?

南さんの子供?


固まっていると、


「竜生、真鈴まりん。 お客さんやで。 ごあいさつは?」

南は後ろにいる夏希を紹介した。


「こんばんわ~!」

二人はお行儀よくお辞儀をした。


「こっ・・こんばんわ! 加瀬夏希といいます。」

緊張して大人にするような挨拶をしてしまった。


「あのっ。南さんのお子さんですか?」

と聞くと、


「ううん。 真尋の子。」

南はあっさりとそう言った。


「マサヒロさんの?」


あの人

人の親だったんだ。


それに驚いてしまった。


「うち、三世代、三家族同居なの。 社長んとことあたしと真太郎の世帯と、真尋んとこの家族。 ま、全部独立した部屋のつくりにはなってるけどね。 ウチは子供いないから、この子たちが子供みたいなもんで。」

南は笑顔で言った。


南たち夫婦に子供がいないことを初めて知った。


というか

普段の彼女を見ていると、全く家庭の匂いがしなかったので、想像もつかなかったが。


「これが、長男の竜生で今5歳。 んで妹の真鈴まりんで2歳。 かんわいーやろ? 二人とも!」

南が自慢して言う、


「はあ。」


確かに

あの人の子供とは思えないほど


すっごい

上品な顔立ち。


そこに呆然としていると、


「あ、南さん。 お帰りなさい。 ほんとに留守中は子供たちのこと、ありがとうございました、」


子供たちの背後から信じられないほど美しい人が出てきた。


「ううん。 も、二人ともめっちゃいい子やもんな~。」


だれ?


ほんと

この家族ナゾが多い…


夏希は玄関先から一歩も動けなかった。


「あ、彼女。 真尋の奥さんでエリちゃん。」

南に紹介されて、


「えっ!」


あからさまに驚いてしまった。


あの

野獣のような人に

こんなキレイな奥さんが。


「あんた、今、なんであの真尋にこんなキレイな奥さんが、って思ったやろ?」

あまりに図星を指され、


「や! も、ぜん・・っぜん!」

全力で否定したが、


「それはみんな思ってるからいいって。 彼女もウチのピアニストやねん。 沢藤絵梨沙って知らない? 真尋よりわりと有名かも、」


きいたこと

あるような。


「彼女、この4月に事業部に入社してきた加瀬夏希。」

南に紹介され、慌てて、


「かっ、加瀬です!  こ・・んばんわ!」


今度は子供のような挨拶をしてしまった。


そんな夏希に彼女は天使のような微笑で迎えてくれた。

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