第100話 北都家の秘密(3)

さっき

さんざん話を聞いたけど。

やっぱ

信じられないなァ。


夏希は真尋が食べる姿を見て、そう思ってしまった。


だって

ほんっと。

なに?

ライオンとかの食事風景のような。


「あ、竜生! おれの肉団子1コ食ったろ、」


「食ってないよ。 さっきじぶんで食べてたじゃん、」


5歳の息子にもそんなふうに言われてるし。


それに引き換え。


「加瀬さんはすごく背が高いけど、なにかスポーツやってたの?」


絵梨沙は日本人離れしたちょっとブラウンの瞳で優しく夏希を見た。


「え・・あ~。 野球を。」

と言うと、


「野球?」


真尋は食べ物以外のことがアンテナに引っかかったようで彼女を見た。


「はあ。女子野球を・・」


「けっこう日本代表で海外とか行ったりしたみたいよ。スポーツ万能なんやって。」

南が補足した。


「真尋も高校時代野球をやっていたのよ、」

絵梨沙が言った。


「いちおう甲子園も目指しててんな、」


「甲子園かあ。 子供のころは絶対行けると思ってましたァ。 高校生の頃、友達と見に行きましたよ、」

夏希は懐かしそうに言う。


しかし


「うっめー! このエビマヨ!」


真尋はまた猛獣のエサ風景で食事を始めた。

さすがの夏希もいつもの調子が出ずに、この男に圧倒されてしまった。


食後のお茶をしていると、


「エリちゃんは今月、テレビの音楽番組に出るの。」

南が言った。


「久しぶりなんで緊張します。 ウイーンで練習もしてきたんですけど。」


「なんか。 ほんと日本人離れした・・」

夏希が彼女の容貌をまじまじと見て言うと、


「ああ、エリちゃんはね。 お父さんがアメリカ人のピアニストなの。 お母さんは日本人やけど、」

南が説明した。


「ハーフ、ですか・・」


「ええ。」


どうりで。

透き通るような白い肌に、鳶色の瞳。

スっと通った鼻筋。


「お子さんは絵梨沙さん似ですね・・」

夏希はぼーっとしたままそう言った。


南はお茶を吹き出しそうになりながら、

「も、100%言われるから! 真尋、あれでちょっと傷ついてるんやで、」

と言った。



「あれ? 真尋さんは。」

いつの間に彼がいない。


「ああ。 地下にピアノの練習場があってな。 そこやない? ああ見えてピアノには真面目やねん。 真尋も今月の下旬に渋谷でミニライブやし、」


「本当に事業部の方たちにはご迷惑をかけていると思いますが。 今後ともよろしくお願いします。」

絵梨沙から頭を下げられて、


昼間のたいやきのことを思い出してしまったが、

「い、いえっ! こちらこそよろしくお願いします!」

夏希は思いっきり頭を下げて手にしていた紅茶のカップも一緒に傾けてしまい、


「わーっ!」

皿もひっくり返してしまいテーブルが紅茶の海になってしまった。


「も~~、なにをしてんねん、」

南は布巾を持ってきた。


「すっ、すみません!!」

もう平謝りだった。

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