第94話 繋がる(4)

なんとなく

わかってきた気がする。


「あ、おはようございます。」

翌朝、夏希は出かけようとすると、同時にドアから出てきた萌香と偶然に会った。


「あ、・・おはよう。」

萌香は彼女の元気のメーターを何となく探ってしまった。


「斯波さんは今日はどうしたんですか?」


「横浜に直行だから。」


「そうですか。 外出が多くてホント大変ですね。」

彼女はいつもと同じだった。



エレベーターに乗り込んだ時、


「あ・・加瀬さん。 あの、」

高宮のことを尋ねてみようと思った時、


「昨日の夜、高宮さんから電話が来ました。」


それを見透かしたわけではないのだろうが、夏希の方からそう言ってきた。


「電話?」


「はい。 すっごい泣いてしまいました。」


夏希は恥ずかしそうに頭をかく。


「図々しい気がして。 昨日は平静を装っていましたけど。 なんで黙って行っちゃったんですか?ってすっごく言いたかった。 だけど、あたしは高宮さんにとってそんな存在じゃないって。 思っちゃって。 自分で踏み込めなかったくせに。 高宮さんがあたしのことを好きだって言ってくれたことも、正面から受け入れられなくて。 それをわざと考えないようにしてたのに。 あたしなんかが高宮さんに相応しいなんて到底思えなかったし。 そのくせ考えてることは彼女気取りじゃないですか。」


落ち着いた様子で素直に話す彼女の横顔を見た。


「仕事、がんばってねって・・そう言われて。 あ~、あたし、高宮さんのこと好きなんだって。 初めて認められたというか。」


ようやくその言葉を口にした彼女に、


「・・今頃気づいたの?」


萌香はふっと笑った。


「え…」


「私は前から気づいてた。 加瀬さんが高宮さんのことを好きになっちゃったんだなあってこと。」


「栗栖さん、」


「半年の間、離れているのはさびしいけど。 彼が大阪に行ってしまったことであなたはようやく彼への気持ちに気づいたのかもしれない。 そう思えば・・これも意味があることなんじゃないかしら。」



『意味があること』


あたしたちに


『これから』


あるんだろうか。



夏希はぼんやりとそう思った。



「だから。がんばろうって。 まだまだ仕事だってきちんとひとりでできないし。 もっと張り切って、自分のやるべきことをやろうって。」

夏希はいつものひまわりのような笑顔を見せた。


「うん。」

萌香は優しく彼女を見つめた。



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