第93話 繋がる(3)
どうして、のあとの
言葉が全く思いつかなくて何も言えない。
夏希は頭が混乱しそうだった。
「ごめん、」
高宮の声でようやく涙を拭いながら、
「あ、あたしには言ってもムダだって・・思いました?」
我に返りつつ、責めるようなことを言ってしまった。
「そんなことないよ。 おれだって本当はショックで。 いきなりだったから。 きみには何て言っていいかわかんなかったんだよ。」
「ふ、普通に。大阪に半年の間行くって、そう言ってくれれば・・良かったのに!」
もう、誰にこのモヤモヤした気持ちをぶつけていいかわからず、
結局、その張本人の高宮にぶつけてしまっていて。
わかっていても止めらない。
「そんな風に言ったら、きみからあっさりと『さよなら』って言われちゃうんじゃないか、とか。 ほんっともうパニくってて。気がついたら行く日になっちゃったし。」
言い訳がましいと思いながらも、それは本当の気持ちでもあった。
「さよなら、なんて。」
夏希はぎゅうっと携帯を握り締めた。
「大阪、けっこう大変なことになってるんだ。 おれでできることなら何とかがんばりたい。 たぶん、来年の4月には戻れるから。だから、」
高宮は
『待っていて』
その言葉がどうしても言えずに飲み込んでしまった。
夏希はもう心の中のハムスターが何かにとり憑かれたように、まわし車をガンガン回しまくっているかのような状態になっていた。
「加瀬さんも、仕事がんばっていて。 そっち・・戻ったらまたゴハン食べに行ったり、サーフィンに行ったりしよう。」
高宮はムードのないセリフを口走ってしまった。
「あ、ハイ…」
夏希もつられて返事をしてしまう。
「あのっ!」
夏希は電話を切る寸前に思い切って彼に問いかけた。
「え?」
「なんでもないときも・・電話とかメールとかしていいですか、」
あまりに
かわいい質問に
「うん。 おれもするよ。」
気持ちがすうっと軽くなって
彼女への気持ちが溢れてきて。
好きだよ。
もう
どうしていいかわからないくらい。
こうして
遠く離れてるなんて今も信じられないけど。
すぐ隣にきみがいる気がするけど。
きっと
すぐに会いたくなってしまうと思う。
不思議。
この気持ちは。
今までに感じたことがないくらい
切なくて。
中学時代、憧れていた先輩が卒業していった時の気持ちとも違う。
彼から抱きしめられたことを思い出す。
自分に向けてくれている気持ちに
あたしはずっと引っ張られてきたんだろうか。
だって
こんなこと初めてだから。
ずっと前に
学校の先生が言ってた。
地球は月があったから地球として存在し続けることができているんだよって。
月の引力で地球は生きている。
それが当たり前の毎日だったのに。
いきなり手を離されて。
その力がなくなったら。
そう思うだけで怖かった。
今日一日、ずっと不安でどうしようもなかった気持ちはこれなの?
夏希は部屋の窓から見える煌々と輝く半月を見た。
同じ月を
あの人も見ているのだろうか。
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