第91話 繋がる(1)

「なんかあたしらしくもなく、つっこめなかった。 どーしよ、」

南は萌香にコソっと言った。


「本当に、加瀬さんは知らなかったんでしょうか。」


「志藤ちゃんの話だと、知らないみたいやったって。 もー、高宮、何考えてんねん!」




「あ、どうも先日はお世話になりました~! あの後も盛り上がっちゃったんですか~?」


得意先の人間と電話を元気にする夏希を見ながら萌香は焼肉屋で高宮を思って泣いてしまった彼女のことを思い出す。



きっと

ものすごく動揺してる。

それを周囲に悟られないように

一生懸命に元気を出している



小さなため息をひとつついてみた。




「あ、お忙しいところ申し訳ありません。 東京の栗栖です。」


萌香は人気のない休憩室で、大阪支社の秘書課に電話をしてみた。



「栗栖、さん?」

高宮は驚いたような声を出した。


「大阪は大変なことになっていたんですね、」


「ええ。 もう着くなりすぐ仕事です。 支社長が入院されてからペンディングになっていることが山積みで。 芦田常務に渡す前に仕分けをしないと、」


「急でしたね。」


「・・まあ、」




「でも。加瀬さんに言ってあげるくらいの時間はあったんじゃないんですか?」



萌香は彼を責めてしまった。


電話の向こうの彼は無言で。


「彼女はあなたを思って泣いていたのに。」


「え…」



萌香の言葉が高宮に突き刺さる。



「いまどき珍しいくらい本当にピュアな子で。 自分の気持ちさえきちんとわかっていなくて。 だって。 自分で気づいてないんですから。 加瀬さんはもう高宮さんのことを好きになっているって。」



彼女が?

おれのこと?



「私にわかって彼女本人がその気持ちに気づいていなくて。 もうあなたのことがすごく大事な人になってるってこと。 だから、あなたがつらい思いをしている時、胸が痛くなって涙がこぼれて。 そんな人が急にいなくなってしまったら。 かわいそうすぎます、」



高宮はしばらく言葉が出ずに黙りこくっていた。



そして、


「・・言えなくて。」


ポツリとそう言った。


「え…」


「言えなかった。 彼女の気持ちがどうなっているのかわからなくて。 このまま半年も会えなかったら、いったいどうなってしまうのかって考えただけで。 言えなかった。 だって、待っていてなんてまだとても言えないし。

どうしていいか・・わからなくて。」



彼の本心だった。



「加瀬さんにそう言ってあげてください。」

萌香はぎゅっと携帯を握り締めた。

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