第77話 夏休み(1)

一般の会社とはかなりかけ離れた業種なのだが、

お盆中の社内はなんとなく閑散としている。



芸能社は一般の人たちが休んでいる時が、稼ぎ時なのだろうが、都内の道路が空き始めると不思議に社内ものんびりとした空気になる。



「わぁぁぁぁぁ~~!!」



夜になり、さらに静かな部署内に八神の叫び声が響き渡った。


「なんや、も~~。 うるさいなあ。」

部屋には志藤しかいなかったのだが、顔をしかめて迷惑そうに言った。


「お、おれが3時間かけて作った表計算が! 固まって! 動かないんですっ!」

八神は泣きそうになりながらパソコンを指差した。


「おまえ~。たかだか、エクセルの表計算で何時間かかってんねん。 ほんまもう、どんくさいというか。」



志藤は彼のデスクに歩み寄り、固まった画面を見て、適当にキーを押し始めた。


「ちょ、ちょっと! どうにかなっちゃったらどーすんですか!」


「こういうのは・・なんかすると。なんでもなかったかのように動いたりすんねん、」

自信満々に言ったが、突然画面にわけのわからない英語の文字がずらっと並んでしまった。


「あれ?」


「あれ?じゃないでしょう!! あ~~、もう!!」



そこに


志藤さん、これ社長から預かってきました、」

高宮がファイルを持ってやってきた。



「も~~!! どうしてくれるんですかっ!!」

八神はそんなことも無視して騒ぎまくる。


「うるさいなあ、もう。データ、セーブしてあるんやろ?」


「しようと思ったらこうなちゃったんですよっ!」


「アホやなあ…」



二人の言い争いに、


「ちょっと。」

すばやく事情を飲み込んだ高宮が八神をどかしてパソコンの前に座った。



そして

華麗にキーボードを操る。

待つこと10分強。


突然、八神が必死で作った表計算シートが画面に映し出された。


八神はディスプレイをひっつかんで、

「お~~~! 生きてたかあ!!」

数字たちとの感動の再会を喜んだ。


「データはこまめにセーブは常識です。 あと、ここの関数ですが、間違っていたので直しておきました。」

冷静に言われて、


「さすがコロンビアやなあ。」

志藤がからかい半分に言うと、


「高校の頃は理数系でプログラムとかも作ってましたけど、コロンビアでは違うほうに行っちゃいましたから。 まあ、このくらいなら、」

余裕で言った。



「コロンビアって、ロスとかの方にあるの?」

八神が聞くと、


「…NYです、」

高宮はため息をついて言った。


「そーなんだ。 知らんかった、」


"知らない"ということを、恥ずかしげもなく口にできる素直さに、高宮は夏希のことを思い出した。


「まあ。コロンビア大が南米にあると思っていた人もいましたから・・」

思わず口にすると、


「はあ…??」

二人は同時に首をかしげた。

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