第76話 接近(4)

「え? 17日? 実家からは帰ってきてるんですけど、友達がお祝いをしてくれるっていうんで、飲みに行こうかなあって、」


「そっか・・じゃあ、次の日は?」


「…別に空いてますけど、」


「じゃあ、ごちそうするよ。 お誕生日とこの前のお礼もかねて、」


「お礼?」


「バナナがゆの、」

高宮はそう言って笑った。


「そうとう恨んでますね。」

夏希は恨めしそうに彼を見た。


「恨んでなんかないよ、」


「じゃ、もう一回、食べます?」


「・・それは。ま、おいといて。」


「おいとかないでください、も~、」


社内では周囲の目が気になるので、二人はもっぱら内線電話で会話をするようになった。


そっか

友達と、か。

高宮は少しガッカリして受話器を置いた。



でも

なんかプレゼントしたいよな

いつもメシばっかだし。


彼女は普通の女の子と違うから、どういうものが嬉しいのか、皆目見当がつかないし。



残業中、休憩室でぼんやりと考えていた。


そこに、ふらっと南が入ってきた。


・・ということには気づかないほど、集中して考え事をしていた。


すると

彼女はいきなり彼の視界の中に飛び込んできた。


「わ・・なんですか、いきなり。」


「あたしが入ってきたことも、ぜーんぜん気づかないで。 何考えてるか当ててあげよっか?」


不気味に笑った。


「なんだよ、も~」

と、彼女を避けるように体を横に向けた。


「加瀬の誕生日のプレゼント、なにがいいかなーとか、」


ギクっとした。


「あ! 図星!」

思いっきり鼻の頭を指差され、半ばヤケになり、


「いいじゃないですか。 彼女、変わってるから何がいいかわかんないんですよ、」

認めてしまった。


「そやなあ…」


「・・指輪、とかいきなりすぎますかね?」

逆に身を乗り出してきたので、


「えっ! つきあってへんのにいきなり指輪??」


「声が大きい…」

高宮は焦って周囲を見回す。


「重いよ~。 それは重い! だいたい加瀬ってアクセしてるところ見たことないし。」


「なにが好きなんだろ、」


「・・新しいジャージとか、」

南は自分でもいい思いつきだと思った。


「はあ??」


「喜ぶ顔が目に浮かぶ~。」


「・・バカらし、」

高宮は鼻で笑ってそっぽを向いた。



「ウソウソ! そういえば、前にね。 萌ちゃんが加瀬から万華鏡をもらったって言うてた。」


「万華鏡?」


「うん、キラキラしたものが好きなんやって。 その万華鏡もみせてもらったけど、めっちゃ小さくてかわいいねん。」


「キラキラしたもの。」


「と言っても。 指輪は重いよ、」

南は念を押す。



「で、そのときに斯波ちゃんにもプレゼントしたんやけど、なんやったと思う?」


想像もつかなかった。


「ダンベル!」


しばしの沈黙の後、高宮はぷっと吹き出した。


「意味わかんなくて、さすがの斯波ちゃんもツボに入っちゃって、ひとりで部屋篭って笑ってたんやって、」


「・・ほんっと。 かわってるよなあ・・」

高宮はおかしそうにいつまでも笑ってしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る