第75話 接近(3)

「え~、おいし~~。」

夏希はそのスープを口にしながら、感動して言った。


「簡単やん。骨付きの鶏肉と野菜を煮込んで、塩コショウして。 ショウガを効かせるのがポイントやけどな、」


高宮は不満を持ちつつも、今日は安心して食事ができそうな気がしていた。


「しっかし、斯波ちゃんも笑っちゃうよね~。 どこまで過保護なんだか?」


「完璧・・オヤジ化してましたよ、」

夏希は不満そうに言った。


「たぶん、あんたのこと一番心配してるの、斯波ちゃんやん。 あの男、けっこう人情あるっていうか。」


「一応、あたしこれでも22なんですよ~? って・・もうすぐ23か。誕生日、今月の17日なんですよ。」


「で、カレシいない歴もまたひとつカウントされるわけね。」


「はああ、もう・・傷つくこと言わないで。」

夏希はがっくりと肩を落とした。


「だって、」


南は横の高宮を小突いた。


「は?」


「は?って。今の話聞いてたの? もー、めっちゃいいヒント来たやん、」


「ヒントって、」


「・・ほら、誕生日のプレゼントとか!」

小声で彼に耳打ちした。


「あ、ああ…」

慌ててうなずく。


「え? なんですか?」

夏希が怪訝な顔をすると、


「あ~、なんでもない、なんでもない。 加瀬、おかわりは?」


「はいっ! いただきまっす!」

元気に皿を差し出した。


「ね~、南さ~ん。 見て、高宮さんとこのテレビ、4Kなんですよ。 こんなにキレイに見えるんだあ。」


「も、4Kは画面のキレイさが違うもん。 料理番組とか見ると、めっちゃおなかすくくらい美味しそうに見えるねんで。」


「え~。いいなあ。 想像するだけでおなかが鳴っちゃう~。」


話し出すと止まらない二人に。


ここは

どこだ?

おれんちだろ。


高宮はどっと疲れてしまった。 



「おはよう・・ございます、」


高宮は亡霊のように現れた。



「お、地獄から生還してきたかのような男、」

志藤はハハっと笑った。


いつものように南が彼のデスクの脇で雑談をしていたので、


「・・昨日は・・お世話様でした、」

いちおう頭を下げた。


「ああ。 ノープロですから、んなもん。」

南は明るくそう言った。


「昨日、高宮んとこ見舞いに行ってん。 加瀬と、」


「加瀬と?」


「あんた、斯波ちゃんにチクったやろ? 加瀬が高宮んとこ泊まった話。」


「チクったって。ほんのちょっと言っただけやん、」


「も、加瀬、そのことで斯波ちゃんにめちゃくちゃ怒られたんやて。 ほんま、もう過保護っていうか。 なんか自分の部屋の隣貸すようになってから、父親気分になってるんちゃうのん? この前も、加瀬が友達と飲んじゃって遅くなったら、鍵を開ける音を聞いてたみたいで、次の日に『遅かったな、』って言われたみたい。」


「なんや、ソレは・・」

もう笑ってしまった。


盛り上がる二人に、

「…とりあえず、仕事します。」

高宮は自分の席に着く。


南が

「あたしが行ったらさあ、あからさまにやーな顔するんだよ、」

わざと高宮に聞こえるように言うと、


「してませんて、も~~、」


鬱陶しそうに振り向いた。

その彼の情けない顔に二人は顔を見合わせて笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る