第54話 前進(3)

「も~・・飲めない。」

高宮は南に飲まされて、もうヘロヘロだった。

夏希が席を外すと、南はここぞとばかりに彼の肩に手をやって、


「ね、高宮はさあ。加瀬のこと、どう思ってるの?」

ようやく本題に入り、みんな身を乗り出した。


「どーって。 ん~、かわいいですよ?」

目をこすりながら言った。


「うん、そやなあ・・加瀬はかわいーよなあ。 あんなにでっかいけど、」

南はウンウンとうなずく。


「それで?」

さらに突っ込む。



「…すきですよ。」


もう半分眠っていた。


「なにっ??」

八神が身を乗り出す。


「…すきです。 彼女が。 すっごく。」


南と萌香は顔を見合わせた。


そして今度は聞かれてもいないのに、


「おれは・・加瀬さんのことが好きです。 マジ、 つきあいたい!!」


絶叫してしまった。


「な…」

戻ってきた夏希はものすごくものすごく驚いて、


「何言ってるんですかっ!」

高宮の口を手で押さえた。


「ぐ・・・」

あまりに勢いよく彼の口を押さえたため、鼻まで塞いでしまい、息ができずにもんどりうった。


「死んじゃう、死んじゃう!」

南が慌てて彼女の手を離してやった。


「おまえ、手えデカイから・・」

志藤はおかしくて笑いそうになった。


「い、今、高宮さんが言ったことは冗談ですから! みなさん本気にしないでくださいっ!」

夏希はもう真っ赤になって慌てふためいた。


「そんな、慌てて。」

志藤は呆れて言った。


高宮はその騒ぎの中、ぐうぐうと寝始めてしまった。


「も・・全然そんなんじゃなくて、」

夏希は声のトーンが、ガクっと落ちた。


「高宮さんはなんて言うか。 自分を大事にしてない気がして。自分で自分を傷つけてるみたいな人で。 だけど、あたしのバカな話でも笑ってくれたり。 そんな風に笑ってくれる・嬉しいなって。 思って。 高宮さんみたく頭が良くて、家柄のいい人があたしなんかに本気なわけないじゃないですか。 ちょっと珍しいだけだと思うんです、」


そんな風に言う彼女が、なんだかかわいそうに思えて。


「まあまあ、そんなに悲観しなさんなって、」

志藤がその空気を打ち破るように、ふうっとタバコの煙を吐いた。


「高宮の本気度はわからへんけど。 でも、ああ、最近こいつ変わったなって思うもん。 なんてゆーか。 全てに当たりが柔らかくなったと言うか。 おれなんかコイツのこと何べん殴りたくなったか。 そんくらいナマイキなことも平気で言ってたのに。 ・・うん、最近は違う。」

とうなずいた。


「本部長、」


夏希はぼんやりと彼を見た。


「ええんちゃう? 楽しくメシ食って。 ほんま、楽しいのが一番やん。」

みんな納得しかかったが、


「・・ある意味衝撃でしたけどね。」


八神は高宮の寝顔を見て言った。


「確かに、」

それにもみんなうなずいた。

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