第53話 前進(2)
「も、結局みんな気になっちゃってさあ、」
「だからほっとけっつーの。 ほんまに暇やな。」
秘書課の志藤のデスクの横には南用の小さな椅子が用意されていた。
「自分用の椅子、持ち込みやめてくれるか~? ジャマでかなわん・・」
志藤はタバコに火をつけた。
「折りたたみやもん、えーやん。」
そこに高宮が戻ってくる。
南は反射的に
「ね、よかったら今からみんなで飲みに行かない?」
いきなり彼を誘った。
「は?」
本人だけでなく志藤も驚いた。
「ねー、たまにはええやん。 いっつも事業部で行く。ほら向かいのビルの地下の『新月』って和食ダイニング。そこな、ほんまお酒も食事もめっちゃおいしーねん。 高宮も行こうよ、」
にや~~っと笑って彼に近づく。
いったい
何をたくらんでる??
志藤は眉間に皺を寄せて動向を見守った。
「いや・・仕事、たまってるんで。」
高宮はいつものようにそっけなく言った。
「そっかあ。 あのな、志藤ちゃんと~、あと、事業部に萌ちゃんと八神と~タマちゃんが残ってたから。一緒にどうかなあって。 あ、あと、加瀬もいたから・・誘ってあげよっかな。」
ものすごく
ものすごく
思わせぶりに言った。
高宮のペンを持つ手が、ピタっと止まった。
「まあ・・今日やらなくてもいいかもしれないけど。」
と言い出し、志藤が一番驚いた。
なんや、
こいつ。
いつもの彼ではない。
加瀬が来るって言ったとたんに??
こいつ
こんなキャラやったん??
「よし! んじゃ、行こう! ね!」
南は張り切った。
志藤は南をそっと手招きをした。
「なにをしたいねん・・」
「だからあ。 一緒に飲んだりすればさあ。 だいたい二人がどこまで進んでるかわかるよ。 ほら、聞くのもヤボやんかあ、」
いつものいたずらっぽい瞳でほくそえんだ。
「高宮さん、あんまり飲めないんですよね~? 大丈夫ですかあ?」
一緒に『新月』に向かった7人だったが。
夏希と高宮はみんなが注目する中、何となく隣同士に座り会話を聞いてないフリをして耳をそばだてていた。
「ん・・あんまり飲み過ぎないようにしないと・・」
「もう、なに言っちゃってんの。今日くらいじゃんじゃん飲んでって!」
南は彼のグラスに焼酎をどくどくと注いだ。
「怖いなあ・・もう、」
高宮は警戒した。
「え? タマちゃんとこの娘。もう2つになったの? 早いね~。」
「ほんと、最近は言葉もたくさんしゃべるようになって、」
「この前、写真を見せてくれたんですけど、すっごくかわいいんですよ、」
普通の会話をしつつも、隅に座った二人のことが気になって、気もそぞろな中身の薄い会話が続く。
「でね、その『激旨カルビ』ってのが、一番かと思って食べたら、その後から『極旨カルビ』ってのがありますよって。どっちが旨いんだって話なんですよ~。」
「そりゃ、本家と元祖みたいなもんでしょ。その焼肉屋のおばちゃんはプロだね、」
「なんかね、久々に負けた気分でしたよ。 でも、ま、それも食べちゃったんですけどねっ!」
夏希の話に高宮は大笑いしていた。
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