第47話 告白(2)

夏希は帰宅して自分の部屋に入ろうとしたが、ノブに手をかけたところで隣のドアを見た。


「今日は遅かったのね。 残業?」

萌香が笑顔で迎えてくれた。


「はあ。」


「ゴハンは? 今日は彼が出張でいないから私もまだなの。 少し食べない?」


「なんか、食べれそうもないっていうか…」

と言ったので、


「え。 どこか悪いの? 大丈夫?」

彼女は真剣に心配してしまった。


「や、なんでもないんですけど。 いや、なんでもなくもないと言うか・・」

いつもの彼女らしくない様子に萌香は、


「ひょっとして何か悩んでるの?」

思い切って聞いてみた。


「悩み…」


そう、もう悩みに近かった。



「は・・。 高宮さんが?」


さすがに萌香は持ってきたお茶をこぼしそうになってしまった。


「はあ。 なんだったんでしょう。 夢かな、とか…」

夏希はまだ呆然としていた。


南から二人がたまに食事に行っているらしい、ということは聞いていたが。


「なんかほんっと。びっくりっていうか。 いつも楽しくゴハン食べてただけだったのにって。 高宮さんは、すっごいエリートで、お父さんだって偉い人だし。 でも、ほんとそんなこと全く感じさせなくて。 いつもあたしのバカな話もきちんと聴いてくれて。」

萌香は小さくうなずいた。


「もう、なんかパニックですよ。 ほんっとあたしこういう状況なかったんで! 今までどおり、ゴハンとか行かれないって思っちゃって…」


本気で悩んでいる彼女に、


「加瀬さんは、高宮さんのことをどう思っていたの?」


萌香は根本的なことを聞いてみた。


「すごくいい人だと思ってましたよ…。」


「そうやって何度も食事に誘われて、彼があなたのことを特別な目で見ているとは思わなかった?」


「え、全然…」


きっぱりと言う彼女に萌香は力なく笑ってしまった。 


普通は

少しはそう思うわよ…。


夏希のわかっていなさに、半ば呆れながらも、あまりに純真な彼女が本当にかわいくて仕方がなく思えた。


「高宮さんの気持ちはよくわからないけど。 でもね、まあ一般論で言うと、好きだとか特別に思っていなかったらそうやって誘ったりしないんじゃないかしら。」


萌香は小さい子供に言い聞かせるように夏希に優しく言った。


「そう、なんですか?」


本気でそう思っている彼女が、だんだんおかしくなってきて、クスっと笑ってしまった。


「おつきあいした人は、今までいないって言ってたけど。 好きになった人くらいはいたでしょ?」


「そうですね。 なんか中学くらいまでは、好きって異性としてとか、友達として、とかわかんない感じで。 中学でも男の子と一緒に野球部でやってましたから。 もう、その辺がごっちゃになっちゃうってゆーか。 高校からは女子ばっかだったんで。 そういう機会も全くなく。」


いまどき

天然記念物級の子だわ。


萌香はある意味”箱入り”の夏希に驚かされる。


でも

本当に

男と女のドロドロしたとこだって。

全然知らなくて。

大人の汚れた関係だとか。


もう

想像もつかないんだろうな


あたしとは

全然、違う。


萌香はぼうっと考えてしまった。

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