第45話 変化(2)
「あ、加瀬さん、」
残業中に休憩室でコーヒーを飲んでいた夏希はいきなり高宮が入ってきて驚いた。
「あ・・ども、」
昼間の話を思い出してしまう。
「昨日のトコ、美味しかっただろ? 今度はイタメシとか行ってみない?」
笑顔で言われて、
「あ~。 はあ・・」
何だか彼女の様子のおかしいことに気づく。
「どうしたの?」
「あたし。 ほんと、なんもわかってなくって。」
「何が?」
「高宮さんがそんなすごいおうちの人とか知らなかったし。 お父さんが偉い政治家さんとか・・。」
「え、」
高宮は絶句した。
「あたし、もう、もの知らないって言うか。 その・・コロンビア大学だってどういう大学かとかわかってなかったし。 なんか図々しく何度もゴハンごちそうになったり、」
夏希は頭をかいた。
高宮はふうっと息をついて、
「・・きみも。 同じなの?」
チラっと夏希を見た。
「え…。」
「みんなオヤジのこととか知ると、『すごーい、』とか。 言い出すし。 コロンビア大出てるって言うと、女の子なんかきゃあきゃあ言い出すし。 おれは別に政治家なんかにひとつも興味ないし、なるつもりもないし。 学歴だってそんなの後からついてくるだけで。 みんな、おれ自身のことなんか見てないんだ。」
その顔が。
何とも言えず、さびしそうで。
「高宮さん、」
「きみもそんなこと知ってしまったら。おれのことなんかどうでもいい?」
「そんなこと…」
夏希は顔を上げた。
そうだ。
自分で見て感じたことが全てなのに。
高宮さんは
あたしのバカな話も笑ってちゃんと聞いてくれて…。
「おれはきみといると本当に楽しくて。今までこんな女の子に会ったことないなって。 新鮮で。 こんなに自分を飾らないで全部をさらけ出してくれる人に初めて会ったって、思ったし。」
高宮は少し恥ずかしそうにうつむいた。
「ごめんなさい、」
夏希は彼に頭を下げた。
「え?」
「あたし、小さい頃から母にずっと言われていたんです。 自分が信じたら周りがなんて言おうと。自信を持って全力で信じなさいって。 高宮さんはそういうことを全くひけらかすことなく、あたしに接してくださいました。 そんなことで、気持ちが引いてしまって。 バカみたい。」
「加瀬さん、」
「大切なのは、信じることですよね、」
夏希はいつもの笑顔で言った。
本当に太陽のような笑顔。
ああそうか。
もう彼女のことを、興味本位に知りたいとか。
そういうんじゃないんだ。
おれは
この子が
好きなんだ。
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