第44話 変化(1)

「あ、いっけね。 映画配給会社との打ち合わせの資料揃えておかなくちゃなんなかった。うわ~、時間ね~。」


志藤はひとり言をいいながらデスクの上をバサバサやりはじめた。


すると、


「どうぞ。 時間があったのでやっておきました。」

その気配を察した高宮がすっとクリアファイルを差し出した。


「え…」


「その打ち合わせは常務も同席されますから。」


「あ・・ありがと。」

あっけに取られながらそれを受け取る。


「いえ。」

またくるっと背を向けて仕事をし始めた。



こいつに

なんかしてもらったの初めてやん。

しかも、礼まで言ってしまったし。



「はあ? 高宮とエスニックも行ったの~?」


夏希はいつものように昼休み、コンビニのサンドイッチを食べながら、同じく弁当持参の八神と雑談をしていた。


「それがね。 めちゃくちゃ美味しかったんですよ~。 タイ? インドネシア? なんかわかんないけど、そっち方面の料理で~」


「おまえ、高宮なんかやめとけよ、」

八神はへっと笑った。


「え? やめとけって?」


「なに、つきあったりしてるってこと?」

と言われて、



「なっ…! そんなわけないじゃないですか!」


そんなことを微塵も思わなかった夏希は八神の腕を思いっきり叩いた。


「いっ…そのデカい手で叩くなっつーの!」

八神は身をよじった。


「高宮なんかなあ。オヤジは元財務大臣で、現役の大物代議士で。 オフクロさんはなんだかすっごい家柄のいい人だとか。 んで、本人はコロンビア大学の大学院まで出てるし。 社長から乞われてここで仕事し始めたって評判だったんだから。 おまえにはいきなり大物過ぎるって、」



「え。」


夏希はサンドイッチを食べていた手を思わず止めた。


「ま、悔しいけどエリートを絵に描いたようなやつじゃない? 背も高いし、顔もいいしね。 女子がキャーキャー言ってるもん。 おまえ、二人でメシ行ってるなんてバレたら殺されんじゃね?」

八神は冗談交じりに言ったが、夏希はいきなり考え込んでしまった。


そんな人だったんだ


なんか

よくわかんないけど。


その南米・・じゃなくてコロンビア大学っていうのもやっぱすごいトコなんだ。

お父さんが政治家?


今までそんな人と知り合ったことさえないし。



いきなり現実をつきつけられた。

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