Meets

第36話 名前(1)

『そうだ、そうだなあ。 ウチにはまだ隆之介がいた。』


『大学を出たら私の秘書として仕事をしなさい。 何事も勉強だから。』


『隆之介、あなたもそろそろ身を固めて落ち着かないと。 この前ねえ、とってもいいお話をいただいて。 いいお嬢さんがいらっしゃるって。 銀行の頭取さんのお嬢さんなんですって。 ほんとお嫁さんを選ぶのも大事なことだから。』



もう、放っておいてくれ!

おれは兄貴じゃない!


オヤジもオフクロも。

おれを見ろ!



いつも

そんなジレンマと戦っていた。

自分を通して死んだ兄を見続ける両親に。



「え~っと。 あー、なんかよくわかんない…」


夏希は事業部の真向かいにある資料室に篭ってもう30分ほどたとうとしていた。


斯波に頼まれた資料を探すのに異様に手間取って

手渡されたメモを片手に必死に探す。





もう時間ないのに。


だから早く議案書を出してくれればいいのに!

専務はちょっと暢気なところがあるから。


結局、おれが最後はまとめることになるのに!



高宮も隣の秘書課から、ため息をつきながら資料室にやってきた。




これか?


夏希は一冊のファイルを引き抜く。


しかし


ちが~う。

もう、まぎらわしい題名とかつけておかないでほしい~。


なんか

おなかも空いてきた…。

今日のお昼もコンビニのおにぎりだけだったし。


そのファイルを棚に戻した時、



ガラガラガラガッシャーン!!!


けたたましい音が静かな資料室に響き渡って、さすがの夏希もビクっとした。


「な、なに??」


慌ててその音のほうに駆け寄ると



「い・・」



一人の男がひっくりかえって肩をおさえて苦しんでいる。


その傍らに脚立もひっくり返っていて。

夏希はその人が脚立から落ちてひっくりかえったことがわかり、


「だっ・・だいじょぶですか!?」

彼に駆け寄る。


「いって…。肩・・」

もう脂汗を流して苦しんでいる。


「う、動きますか?」


「え? も~…それどころじゃ…。」



動かないみたい…。 脱臼??


夏希はピンと来て、


「失礼します、」


いきなり彼のネクタイを外し始めた。


「な、なにっ!?」

いきなりの彼女の行動に驚いた。


「静かに。これで固定しますから、」



てきぱきと処置をしていった。



とうとう

二人が出会ってしまった。

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