第20話 素顔(1)

「こんなもんでいい?」


南は夏希のところに紙袋いっぱいの荷物を持ってやって来た。


「すみません。お手数かけます。明日は会社に行けると思いますので、」

大きな体を小さくして言った。


「無理せんほうがええって。 松葉杖なんやろ?」


「もう、ゆうべは痛くて痛くて。 今まで捻挫くらい何度も経験あったんですけど、今回は思いのほか伸びちゃったみたいで・・」

がっくりする彼女がおかしくて、


「思いのほか伸びちゃったって…」

ぷぷっと吹き出した。


南に頼んで、自宅にある着替えなどを車で運んでもらった。


「それにしても。」


夏希は思い出したように言う。


「まっさか。斯波さんと栗栖さんがつきあってたなんて。」


「ああ。 会社の様子やと気づかないかも。 みんなも…そやな、二人が一緒に暮らしだして数ヶ月は気づかなかったもん。 ほんまに斯波ちゃんてしゃべらないからさあ。 ここだってあたし初めて来たもん。 あの人ほんっと秘密主義っていうか、プライベートとかめっちゃナゾやし。 自宅になんかよばれたこと一回もないし。」

南は持ってきた荷物を整理してやりながら言う。


「まあ・・よく考えたらお似合いというか。」


「萌ちゃんはあの通り、めっちゃキレイでスタイルも抜群で仕事もできるし。 斯波ちゃんはあの通り、シブくてカッコよくて、会社にスーツなんか着てきたの一回もないってくらい・・わが道を行く人やしね。 一匹狼っぽいとこがいいって、会社の女子社員からも人気あるねんで。」


「へえええ。」


夏希は大きく頷いた。


「斯波ちゃんもいちおう心配してたで。 バカでどうしようもない、とか文句言いながらも。 あたしに様子を見に行って欲しいとか言っちゃって。」


「・・ホントですか?」


「わかりづらいんやけどな。 けっこう情が厚いと言うか。」

南は笑顔で言った。


斯波にお姫様抱っこをされた時のことを思い出すと、胸がきゅんとなる。


あんなに怖い人だったのに。

すっごく、必死で。

こうして自分トコのマンションに住まわせてくれたり。


夏希は斯波の本当が少し見えた気がした。



斯波は久しぶりに早く帰宅できたので、今日は自分が夕飯を作ろうかと考えながら自室の鍵を開けようとしたが・。


隣から、ドドン!という大きな音が聴こえた。


慌てて隣のドアを叩いて、


「加瀬?」

と声をかけると、しばらくしてぎーーっとドアが開いた。


「あ・・斯波さん。いたたた・・」

腰をさすりながら夏希が出てきた。


「なにやってんだ?」


「ベッドから杖で立とうとしたら…ズルって。 サイドボードに腰ぶつけちゃって・・」


「バカだな。 これ以上怪我したらどうすんだ。 メシは?」


「え・・まだですが、」


「萌は今日は遅くなるって言ってたし。」


斯波は仕方なく彼女のところに上がりこんで、食事の仕度をし始めた。

冷蔵庫を開けると、萌香がいろいろ置いていったようで食材がいくつかあった。

それを適当に取り、フライパンを取り出す。


「し、斯波さん…」


「いいから座ってろ。」

いつものように言葉すくなに言われた。



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