第19話 光と影(5)

「じゃあ、タクシーで行きましょうか。」

萌香は夏希の荷物を持ってやった。


「え、どこに、」

夏希は松葉杖でのそっと立ち上がった。


萌香はにっこりと微笑む。



「ここは…?」


夏希はとあるマンションの前で萌香とタクシーを降りた。

彼女は鍵を出してエントランスの入り口を開ける。


慣れない松葉杖をつきながら二人はそのマンションの12階にやってくる。


「ちょっと待ってて。」

萌香はそこの一室に入り、じきに鍵を持って戻ってきた。

そしてその鍵で隣の部屋のドアを開ける。


「・・???」


そこは日当たりのいいワンルームだった。


「しばらく、ここにいなさい。」

萌香は言う。


「は・・?」


「ここなら会社まで。まあ、地下鉄は使うけどすぐだし。 私も面倒見てあげられるし。」


「栗栖さん??」

わけがわからない。


「ここ。 斯波さんがオーナーのマンションなの。」


萌香はにっこり笑った。



萌香は当座必要そうなものを隣の部屋から持ってきてくれた。


「洗濯機とか電子レンジとか、冷蔵庫とか。 あるから。 遠慮なく使って。」


と、言われても。


さっき…

斯波さんがオーナーのマンションって言ったよね???


ポカンとしている彼女に、


「…ここ、私が前に住んでいたから。」


萌香は片づけをしながら言った。


「栗栖、さんが?」


「今は・・隣にいるけど。」



「??????」


鈍い夏希には何のことやらわからずに、首が傾いだままになってしまった。


そんな彼女を見て笑って、


「ここは、斯波さんのおばあさまから引き継いだものらしいわ。 8年前に亡くなったからって。 11階まで賃貸で貸していて。 他の階は3部屋入ってるんだけど、ここだけ2部屋なの。 隣は斯波さんが住んでいて。 それで、私も…一緒に住んでるの。」


優しく説明してくれたが。


夏希は目をぱちくりさせた。


一緒に???


「もう・・2年くらいになるけど。」


ようやく彼女の言っている意味がわかった。



「えっ!!!」



激しく驚いてしまい、逆に萌香に不思議な顔をされた。


「そんなに驚いて。」

ぷっと吹き出す。


「や・・あ~~~~、そ…うなんですか。 あ~、そうなんだ・・」

狼狽しながら頷く。


「別に内緒にしてるわけでもなく。 事業部のみんなは知ってるけど。」


そうなんだ

斯波さんと、栗栖さん

そうなんだァ…。


心でもまた何度も頷いてしまった。


「彼もあなたが心配なのよ。 良かったらよくなるまでここにいて。」

美しい彼女の笑顔に、夏希はなんとも言えない気持ちに包まれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る