第18話 光と影(4)
「よし! じゃあ、お姉ちゃんが取ってあげる! 待ってて!」
夏希は張り切って金網を上り始めた。
2m近く上がった所でボールに手が届き、
「よっ!」
金網から引っこ抜いた。
「落とすよ~、」
と下にいる少年のグローブを狙ってボールを落とした。
「お~~、すげー! ありがとう!」
子供たちは嬉しそうに礼を言った。
「どーいたしまして! よっ・・と!」
夏希は少しだけ降りてそこからぴょんと飛び降りた。
その瞬間。
「いっ・・・・」
左足が曲がって、グキっ!と音をたてた。
「い…った~~~い!!」
夏希は座り込んで足首を押さえた。
「何やってんだよっ!」
斯波が駆け寄る。
「…い、いけると思ったのに・・。」
夏希は痛みで泣きそうだった。
「バカっ! せめて靴を脱いでから上れっつーの! おい、坊主、ちょっと荷物持ってろ。 タクシー呼んでくるから!」
斯波はそばにいた少年に荷物を持たせ、彼らが呆然としている中走り出した。
ほどなくしてタクシーを呼んできた斯波が、
「荷物、持って。」
夏希に荷物を持たせて、いきなり彼女をお姫様抱っこした。
「へっ!?」
予想外の彼の行動に夏希は驚いた。
「ちゃんとつかまってろつーのっ!」
また怖い顔で言われ、
「はい…」
夢中で彼の首につかまった。
「おだいじに~」
少年たちに見送られ。
お・・男の人に
お姫様抱っこなんて…。
いや、女の人からももちろんされたこと、ないけど…
夏希は"初めての経験"に胸がドキドキして収まらなかった。
「いったい、どうしちゃったの?」
斯波から電話で呼び出された萌香は驚いて、夏希が運ばれた病院にやって来た。
「うう・・痛い・・」
夏希は治療を終えて、左足首にぐるぐるに包帯が巻かれていた。
「んっとに。バカとしか言いようがないなっ!」
斯波はブスっとして言った。
「骨折?」
「いえ、捻挫なんですが。 思いっきり靭帯伸びちゃってるよって。 杖までくれちゃって、」
夏希は情けなさそうに言う。
「重症じゃない。」
萌香は心配した。
「おまえ家、どこなの?」
斯波はぶっきらぼうに言った。
「え…と、葛西ですけど。」
夏希は足をさすりながら言った。
「葛西か。 ちょっと通勤は大変そうね。」
萌香は同情した。
「いいんです。 じぎょうじとくですから。」
しょんぼりと間違う彼女に、
「自業自得だろっ!」
斯波はまた怒ってしまった。
「もう、怒鳴らないで。」
萌香は小さなため息をついた。
「じゃ、おれ帰るから。」
斯波は自分の荷物をまとめる。
「え~、ってあたしは・・」
夏希が情けない声を出すと、
「こんなんで仕事なんかできっか!」
「そんなァ・・」
せっかく
仕事先まで連れて行ってもらえるようになったのに。
夏希は心底情けなかった。
斯波は萌香にそっと耳打ちをした。
「え? ええのん?」
萌香は信じられないように彼を見た。
「しょうがねえだろ、」
そう言い残して彼は早足で帰ってしまった。
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