第14話 走る(4)

二人が永田町の駅につき、駅員に事情を聞こうとすると、萌香の携帯が鳴る。


「はい、・・あ、」

斯波だった。


「え? なに? 病院??」

萌香は夏希と顔を合わせた。



「本当にありがとうございました。 おかげで母は助かりました。」

斯波に指示された病院に行くと、あの婦人の娘が待っていて二人に頭を下げた。


「心臓の持病を持っていて。 今朝、薬を飲むのを忘れて出かけてしまったようなんです。 それで具合が悪くなって。 救急車で運ばれる時に、母の荷物と間違えて救急隊員の方がこの封筒を一緒に持ってきてしまって。 封筒に会社の名前があったので。」

あの封筒を夏希に手渡した。



「あ・・あった。」



夏希は封筒のなかみを確認して、安堵しその場にへなへなと座り込んでしまった。


「本当にありがとうございました。 母も助けてくださった方にお礼を言いたいと言っていたのですが。今眠ってしまっているみたいで。」


「そうだったんですか。ご連絡、ありがとうございました。」

萌香は頭を下げた。



夏希は緊張の糸が切れて、



「う…」



いきなり泣き出してしまった。


「加瀬さん、」

萌香は彼女の肩に手をやる。


夏希は涙を拭いながら、


「・・ほんと・・大事にならなくてよかったです。 あたしもすぐに気づけばよかったのに…」



萌香は一生懸命な彼女が微笑ましく・・。



「本当にご迷惑をおかけしました。」

社に戻った夏希は斯波に深々と頭を下げた。


「・・・。」

斯波は黙っていた。


「今回は急病の人を助けて、こうなったんだから。 運の悪いことが重なって、」

萌香が横から助け舟を出すが、



「たかが、紙切れ一枚と思うなよ。」



斯波は鋭い目を夏希に向けた。



「きみは今まで学生で。 自分のためにしか何事もしてこなかった。 仕事はそうじゃない。 みんなでひとつの仕事を成し遂げるんだろ? 誰かがミスをしたら、全部に響いてくる。 そうだろ? 金貰ってんだから。」


彼の冷たい言い様に、萌香は反論しようとしたが、夏希がそっとそれを制して、


「新人だからと言って、甘えていました。 そんなあたしに大事な書類を届ける仕事を任せて下さったのに。 アクシデントがあったにせよ・・。全て、あたしの責任です。」

夏希はまた深々と頭を下げた。



「…仕事は。 もっともっと自分に厳しくなってして欲しい。」



斯波は少しだけ声のトーンを優しくしてそう言った。



「はい。」


夏希はその言葉をかみ締める。

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