第13話 走る(3)
地下鉄の改札で夏希に追いついた。
「栗栖さん、」
「私も一緒に行くわ。」
「でも・・」
「もしものことを考えて阿部さんにはもう一度描いてもらって、 なんとかもう少し待ってもらいましょう。」
優しくそう言われて、夏希は少しじわっときた。
「ほんと、すみませんでした。」
とうな垂れる。
そんな彼女に微笑んで、
「過ぎてしまったことをクヨクヨしてもしかたがないわ。」
とそっと背中を叩いた。
「は? 加瀬が?」
「もう斯波ちゃん怒りっぱなしで。 そんな斯波ちゃんに萌ちゃんもキレちゃって…。」
南は志藤の所に行った。
「・・・・・。」
志藤は黙ってタバコを吸っているだけだった。
「ちょっと、なんとかしてよ、」
「斯波に任せよう。」
「え?」
「もう事業部のことはほとんど斯波に任せているし。 部下のことも。」
「こう言っちゃなんだけど。 斯波ちゃんは仕事もできて言うことないけど。 人付き合いとか得意やないし。今いるみんなはな、斯波ちゃんのことようわかってるけど。新人のフォローも斯波ちゃんの仕事やん、それを、」
南は思わずこぼす。
「斯波の性格も全部わかってておれは任せてるんやから。 もうちょっと様子を見よう。」
志藤は落ち着いてそう言った。
「ほんっと、もうぎりぎりなんですよ…。 ただでさえ、阿部さんのデザインが遅れてたってのに、」
中丸設計に行くと、社長から泣きつかれてしまった。
「あたしのせいなんです! お願いします! もう一度探しますから・・。 もう少し待ってください!」
夏希は必死に頭を下げる。
「万が一のことを考えて、阿部にはもう一度描いてもらっていますから。 お願いします、」
萌香も頭を下げた。
「もう一度、よく思い出して。 電車に乗って、それからどうしたの?」
駅まで行って萌香は夏希に言った。
「えっと・・。」
半蔵門線に乗って、途中で…
「あ…」
夏希はあの女性のことを思い出す。
「そうだ…」
ぱっと顔を上げる。
「はい、クラシック事業部。」
普段は電話は取らない斯波だったが、みな出払っていたので仕方なく取った。
「はい…。 え? ・・そうですけど?」
意外な電話だった。
「具合の悪いおばあさん??」
「そう! それで、永田町で降りたんです。 その人すっごく苦しんでて。 ホームのベンチに寝かせて。駅員さんを呼んで、救急車で運ばれて、」
夏希は自分で話をしながら、ハッとした。
「あの時…」
救急隊員の人がその人の荷物と一緒に持って行った????
「な、永田町の駅に!!」
夏希はそう叫んでいきなり走り出した。
「ちょ、ちょっと・・加瀬さん!!」
萌香は慌てて追いかける。
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