第12話 走る(2)

「失くした・・だと?」

斯波は怖い顔をさらに怖くして夏希をにらみつけた。


「すみませんっ! ほんと駅員さんにも聞いて・・何度も探したんですけど!」

夏希は頭を下げっぱなしだった。


「・・おまえ。 舞台のデザイン画はなあ、マル秘事項だろっ!! そんなもん、どっかの人間に拾われたらどーすんだっ! 封筒にウチの社の名前も入ってるのに!!」

ものすごいカミナリが落ちた。



マル秘…。



夏希は自分のしでかしてしまったことの大きさが身にしみた。


斯波はそこにいた萌香に、

「企画の阿部を呼べ!」

低い声でそう言った。


「はい・・」


「はあ?? コピーがない?」

斯波はまた声が大きくなってしまった。


「や・・今までも向こうから上がってきたものはもちろんコピーして残しておきますけど。デザイン画は向こうで取るだけで、こっちではコピーをしませんし・・」


企画から呼ばれてやって来た阿部はこわごわと言った。

夏希は顔面蒼白になった。


「あ、あたしのせいです! もう一度探して!」


「そんなことより中丸設計に話をするのが先だろう! ガキの使いじゃねえんだぞ! おまえは書類を届けることもできないのか!」

斯波の怒声が事業部中に響き渡る。


「それでなくても阿部のデザインのあがりがおそくて、今日がリミットだったんだぞっ!!」


「すみません!  あたしの責任です!あたしが先方に行って・・」

夏希はもうどうしていいかわからないほどパニくっていた。


「新人のおまえにどう責任が取れるって言うんだっ!」

そう怒鳴られたが、夏希は反射的に部署を飛び出した。


「加瀬さん!」

萌香は彼女を止めるように声をかけるが、その声も聞こえていないようだった。


萌香はつかつかと斯波のデスクに向かい、なおも自分の仕事を続ける斯波に、


「斯波さんが、中丸設計に話をしてあげたらどうですか?」

と言い放った。


「あいつのミスだろ。」

冷たく言う彼に、



「志藤本部長は、きちんと部下のフォローはして下さいます、」

と強い口調で言った。


「おれと志藤さんを比べるな!」


斯波も激しく言い返す。


「あなたは本部長代理でしょう!? 自分の仕事だけしてればいいってわけじゃないんですから!」

普段物静かな彼女が声を荒げたので周囲は驚いた。


「・・あんまりです。」


萌香はバッグを持って部屋を出た。

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