第11話 走る(1) 

ところが。


「場所はここ。 わかりやすい所だから大丈夫だと思うんだけど。」

萌香は地図と封筒を夏希に差し出した。


「ええっと。中丸設計って会社に届ければいいんですね。」


「今度の定期公演の舞台のデザイン画なの。 ウチの企画の人がデザインしたものを設計会社の人にお願いして設計図に起こしてもらうの。 ウチのオケは舞台も華やかに楽しくって本部長がやられていた時からそういう方向で。だから舞台設計もすごく練って。」


「へえ・・そうなんだぁ。 なんか楽しそうですね。」

夏希は笑顔で言った。



神保町で降りればいいんだよね。



夏希は『初めてのおつかい』を楽しんでいた。



好事魔多し。



途中の駅で乗ってきた初老の女性が彼女の前に立つ。



なんか

気分が悪そうだなあ。



顔色の優れないその女性を見て、

「あの、どうぞ。 座ってください。」

席を譲った。


「・・すみません。ありがとう、ございます…」


「顔色、悪いですけど・・お加減でも悪いんですか?」

思わず聞いてしまう。


「・・いえ・・」


その人は否定をしたが、胸を押さえて苦しそうにし始めた。



「大変・・! 次の駅で降りましょう!」

夏希は慌ててその人を抱えるようにした。


駅に着くと、ベンチにその人を座らせて、

「誰か! 駅員さーん!」

慌てて助けを呼んだ。


「どうしました?」

ほどなくして駅員がやって来た。


「この人が、なんだか苦しそうにして。 救急車呼んだほうがいいんじゃないですか?」

夏希は焦りながら言う。

人だかりができて大騒ぎになってしまった。


やってきた救急車にその人は運ばれていき、夏希はふうっと一息ついて、すぐやってきた電車に乗った。

空いている座席に座ったが…




えっ!?



封筒が…

ない!!



デザイン画の入った封筒が

ない。

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