第10話 蒔く(5)
「あ、斯波ちゃん! 遅いや~ん!」
のそっとやって来た斯波に南はいつものようによく通る声で言った。
「ども…」
気まずそうにペコと頭を下げた。
「あ、こちらにどうぞ! 今、グラスとおつまみを頼みますから、」
夏希はささっと自分の席を空けて斯波に譲った。
「あ、いいよ・・」
と言うが、彼女はつまみの追加と新しいグラスを頼んだ。
「さっきからめっちゃ気が利くねん。 自分の歓迎会なのに、お酒とかも全部頼んでくれて。」
南は斯波に笑いかける。
「さすが体育会系。」
志藤はまた感心した。
「斯波さん、お酒は何にしますか?」
夏希は彼におしぼりを手渡す。
「あ、斯波さんはお酒が飲めないの、」
萌香がそっと言ったが、
「…ビールを、一杯だけ、」
それをさえぎるように斯波は言った。
「ハイ。 どうぞ。」
夏希は彼のグラスにビールを注ぐ。
「ありがとう、」
斯波は素直に礼を言った。
そして彼が冷めてしまったつまみに手をつけようとすると、
「あ、今、温かいものを頼んでありますから。 これはあたしがいただきます。」
夏希は笑顔で言った。
「そんな気いつかうことあらへんで、」
南が横から口を挟むが、
「いえ。 新入りですから。みなさんの足手まといにならないように。 あたし、ほんと雑用とかぜんっぜん平気なんで。 なんでも言いつけてください。 体力には自信あるし! あと! もし会社の野球大会とかあったら出ますから!」
夏希が張り切ったので、
「野球大会はないなあ…残念ながら。」
みんな笑ってしまった。
新しいつまみがテーブルにやってくると、
「あ、お醤油でいいですか? かけさせていただきますっ!!」
いちいち張り切る夏希にみんな笑って。
斯波もさすがに苦笑いだった。
彼女がやって来て事業部は、ぱあっと明るい空気になった。
元気がよくて、明るくて。
あっという間にみんなにとけこんだ。
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