第8話 蒔く(3)

「じゃ、今日は加瀬さんの歓迎会をやるから、」

南は回覧を作って回していた。


「勝手に、」

斯波はまたブスっとしていた。


「斯波ちゃんも来ないと、袋叩きだよ!」

ずいっと顔を近づけて言う。


「なんじゃ、袋叩きって。 マジ、仕事あるから。」


「最初からじゃなくてもいいから、来てよ、」


「・・・」


その言葉には無言だった。


「もう、」




事業部のメンバーの行きつけの和食屋にて夏希の歓迎会が行われることになった。


「加瀬夏希さん、事業部へようこそ~! かんぱ~い!」

こういう時の乾杯の音頭はいつもムードメーカーの南だった。


「ありがとうございまっす!」

夏希は大きな声でそう言ってグラスを掲げた。


「も~、最近若い子の声聞かなかったから、新鮮…」

志藤が言うと、


「なんか嫌味~、」

南は膨れた。


「だって静かなときなんか、秘書課まで彼女の声聞こえるねんで。 おっかしくて笑ってしまう、」


「電話に出ても噛むしね、」

玉田は笑う。


「かつぜつがいまいちなんですかねえ…」

夏希は真剣に悩んでいた。


「そういう問題じゃないから、」

みんな笑った。


「飲めるんでしょ? どんどんいって、」

志藤は夏希のグラスにビールを注いだ。


「あ、偉い人から注いでもらっちゃて…。 押忍、いただきます!」


男前に受けて、

「男前だな~。 な、八神より男前なんじゃない?」

志藤は笑う。


「そうかもね~、」

みんな相槌を打つ。


「八神さんって。 海外に出張中の人、ですよね?」


「そう。 今はウイーンかな。」


「ウイーン?」

目をぱちくりさせた。


「ま、話すと長いねんけど。 社長の次男、つまりあたしの義弟になるんやけど、北都マサヒロってピアニストがいてな。 彼の演奏会についていってるの。 八神は彼のマネージャー的仕事もしてるから。」


南が説明した。

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