第7話 蒔く(2)

「お茶、どうぞ。」


夏希は斯波にお茶を淹れてきた。

斯波は彼女をチラっと見て、


「今、大事な書きものしてるからいらない。」

と断った。



また…。



南はイライラした。


しかし、夏希は笑顔で、

「はい。 じゃあ、また飲みたい時に言ってください!」

と一礼して、せっかく淹れてきたお茶を下げてしまった。


「あ、加瀬さん。 ここは自分が飲みたい時に自分でお茶淹れるからいいんだよ。」

南は彼女に言った。


「え、でも。 お茶汲み、掃除、コピー取りは新人の仕事ですから。」


「そんなの。 ウチは志藤ちゃんでさえ自分でコピー取るんだよ。 斯波ちゃんだって。 せっかくお茶を淹れてきてもあんなふうに言われるだけだから、やるだけ無駄やって。」

南は笑う。


「いえ。 あたし、別になんとも思っていませんから。」


「なんともって、」


「先輩にはどんなことがあってもたてついてはいけないと、さんざん教わりましたから。 あのくらいなんともないです! あ~、早く斯波さんに認められるような仕事をしたいなあ~。」

夏希はうれしそうにそう言った。





「別につらくあたってなんかいないよ。」


斯波はパソコンのキーボードを叩きながら言う。


「でも、」


萌香も斯波の夏希に対する態度が不満だった。


「優しくしろっての? おれは余計なことをして欲しくないだけだ。」


「相手は新卒なのよ。 学生と社会人なんか全然違う世界なんやから。 いきなり怒鳴ったりしたら、」


「ここにはここのやり方があるだろ? なんで新人に合わせなくちゃなんないの?」


「だからそうじゃなくって、」

萌香はため息をつく。


「悪いけど。 仕事山積みだから。」

とりつくしまもなかった。




「あ、おはよーございまーす!」

夏希はまたも早く出勤をして、今度は床を拭き掃除していた。


出勤してきた萌香と斯波は少し驚いて彼女を見下ろす。


「何やってるの?」


「なんか汚れたたんで。 あ、今日はデスクはいじってませんから、」

笑顔だった。


「床は掃除の人がいてくれるからいいのよ、」

萌香がそう言うと、


「でも、キレイなほうが気持ちいいし。」

元気な声で夏希は答える。



斯波はそんな彼女の横をスッと通り過ぎていつものように自分のデスクについた。

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