6#現実世界への帰還

 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!

 

 巨大イノシシのブーセンは、ゴム風船を何個も口と鼻の穴で膨らませては、吹き口を蹄で結ぶと、笑顔で『風船と逝けし獣の世界』の獣達へ次々と投げ入れた。



 白いクマと4本角のシカは、3匹の猟犬達に話した。


 「この『風船と逝けし獣の世界』と同じ『世界』がかつて、ここら辺の地で人間の魔女がかつて存在していた。

 そこでは、生きていたかったのに突然人間に狩られ獣生を強制終了させられ、心が傷ついた獣達が集い、餌で『最期の晩餐』をした後、ここと同じように膨らませた風船を差し上げて浄土へ、笑顔で旅立たさせたというんだ。

 しかし魔女の死後狩られて心が病んだ獣達の行き場を失い、生前のトラウマを抱えたまま転生した獣達は人間に危害を及び、人間と獣との軋轢を悪化させていった。

 その事例を重くみた自称『魔獣』である私達は、魔鳥獣界のカリスマと言われるハクチョウの女王様に厳しい修行の末、この山奥の廃校の体育館を魔改造して、伝説の魔女の世界をグレードアップさせた、『風船と逝けし獣の世界』を創ったんだ。

 『風船と逝けし獣の世界』は、謂わば『あの世』と『この世』の私設中継地点。

 ここから異世界へ新たな転生に行くか、または生まれ変わるかは、この獣の生前の行ないを神が選択するし、行いが良ければ自ら選択も出来る。

 だから、人間に殺された獣の『もっと生きてたかった』の無念を癒す為に、風船を使って愉しい気分で笑って新たな転生を迎えればな・・・と想いが込められてるんだ。」


 「おっ!俺と同じイノシシか。俺と魔界へ行かないかい?」「も一度自然界に行きます。」「あっそ。」

 

 「何故ここに君達猟犬を連れてきたかというと、君達がハンターで狩ってきた獣達にも『心』があるって事を訴えたかったんだ。

 生とし生けるものが、軋轢無く仲良く生きて行けたら・・・ということを、獣を人間が殺める手助けをする他の猟犬達にも、こうやって訴えて行けたいんだ。」



 「はっ!!」


 猟犬のオムが叫んだ。


 「おい!!2匹とも大変だ!!俺達御主人様から、狩りの練習用のビーチボールを投げたのを追いかけてずっとそのままだった!!」


 「しまった!!」「そうだった!!」


 ポチとセルパも、肝心なことを思い出して頭を抱えた。


 「ああっ!俺は魔界でオークの修行途中を抜け出したんだ!!」


 巨大イノシシのブーセンも声をあげた。


 「しょうがないなあ・・・」


 4本角のシカのノバは地面に蹄で魔方陣を書くと、巨大イノシシを立たせた。


 「マサミカカシマサミカカシ、この大イノシシを異世界へ帰したまえ。」


 4本角のシカが呪文を唱えている最中、巨大イノシシは満面の笑みで嬉し涙を流して、猟犬とポチとセルパへ話しかけた。


 「おお、ビーグルの茶ブチのポインターよお。風船決闘楽しかったぜ!! もう俺は魔界へ帰っても、永遠のマブダチだ!!」



 しゅん。



 巨大イノシシが去っていった後、白いクマは3匹の猟犬達に言った。


 「君達は外に出て。これから元の山地へ戻す準備をするから。」


 白いクマはそういうと、行きに使ったのと同じような透明な巨大なゴム風船を、


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 と大きく膨らませた。


 「さあ!この風船の中へ!!マサミカマクマサミカマク!!風船よ、この3匹のわんこを元の山林へ帰しておくれ!!」



 ふうわり・・・



 3匹の猟犬の中に入った巨大風船は、空高く舞い上がっていった。


 「あっ!!風船に栓をするの忘れた!!めんごめんご。」


 白いクマは焦って謝った。


 「えっ?」「!!?」「なにぃ?」



 ぷしゅーーーーーーーーーーー!!ぶおおおおおおおおおおおお!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!



 巨大風船は、突然上空でロケットのように前後左右にぶっ飛んでいった。


 「うわーーーー!!」


 「ひえーーーーー!!」 


 「目がまわるーーーーー!!」



 ぷしゅーーーーーーーーーーー!!ぶおおおおおおおおおおおお!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!




 「やば!!」


 「空気が抜けた!!」


 「狭いーー!!」


 必死に上空で萎みきった巨大風船を中に入った3匹は、ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!ふーーー!!と、ありったけの吐息を吹いて膨らまそうとした。



 ひゅ~~~~~~~~・・・



 「わーーー!!」


 「墜落するーーー!!」


 「御主人様ぁーーーー!!」



 びよよ~~~~~ン。



 墜落していった巨大風船は、木の枝にまるでハンモックのように引っ掛かった。


 「ふう・・・」


 「一命をとりとめた。」


 「でも、ここはどこ?」


 3匹が、萎んだ巨大風船の吹き口を力付くで拡げて飛び出すと、ここは・・・


 「あれ?」


 「ここは・・・」


 「あっ!!割れて引きちぎれたビーチボール!!」


 3匹の猟犬達は顔を合わせた。


 「おーーーい!!ポチー!!どこだぁーー!!」


 「セルパぁーー返事しろーー!!」


 「オムぅーーー!!オムぅーーー!!」


 ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!


 きゃん!!きゃん!!きゃん!!きゃん!!


 わん!わん!わん!わん!わん!わん!




 3匹の猟犬は、其々のパートナーの胸に飛び込んでいった。


 3匹の猟犬は、其々のパートナーの顔をペロペロペロペロペロペロペロペロと舐めた。


 「心配かけてごめんなさい!」の気持ちを込めて舐め回した。


 「あ、ビーチボール割れちゃったんだ。気にするなよ。新しい今度はでっかい奴でやろうぜ!!」


 ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!


 きゃん!!きゃん!!きゃん!!きゃん!!


 わん!わん!わん!わん!わん!わん!




 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ぱぁーーーーーーーん!!



 「やっべえ!!せっかくのでっかいビーチボールも割れちゃった!!」


 「オム~!尾前が歯を突き立てて掴もうとしたからだよーー!!」


 「どうする?ポチ?」


 

 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 「ふう・・・これで弁償するしかないや。」


 「オム!!まさか!!これは!!」



 ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。



 「な、何だ?この巨大なゴム風船は?」


 「何処から持ってきたんだ?!」


 3匹の猟犬は、お互いの吐息で膨らませた巨大風船・・・あの白いクマが『風船と逝けし獣の世界』から飛ばした巨大風船の目の前で舌を出してはっ!はっ!はっ!はっ!とはにかんで座っていた。




~ポチとセルパとオム~猟犬が白い羆に風船の国へ連れられた話~~


~fin~

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ポチとセルパとオム~猟犬が白い羆に風船の国へ連れられた話~ アほリ @ahori1970

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