4#風船と逝きし獣の世界
ふわふわふわふわふわ・・・
3匹の猟犬、ポチとセルパとオムの入った巨大風船は、空をプカプカと飛んでいった。
「うわーーーー!!街がこんなに小さい!!」
「鳥さんだ!!」
「ひえー!嘴で突っつくなぁーー!!」
同じく、クマの形をした巨大風船の中の白いクマは、吹き口から鼻を突き出して鼻息をフーーーーーッ!!と猟犬達の入った巨大風船の行き先をアシストする為に吹き掛けた。
「あら?何度も吹き口を開いたら、こっちが萎んじゃったから、中で息を吹き込もうっと!!」
白いクマは深く息を吸い込んで風船の中で、ふーーーーーっ!!としようとした。
ツルッ。
「やばっ!!」
思わず白いクマは風船の吹き口を離してしまい・・・
ぷしゅーーーーーーーー!!ぶおおおおーーーーー!!ぷしゅーーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる!!
「うわーーー!!目が回るゥゥゥゥ!!」
白いクマの入った巨大風船は、空中を右往左往にロケットのように吹っ飛んで・・・
「わーーーーーー!!風船がぶつかるーーーーー!!」「ひええええ!!」「うわーー!!」
ぼいーーん。
3匹の猟犬が入った巨大風船に激突して巻添えをくらい・・・
ぷすっ。
「セルパ、ポチ、すまん。風船・・・爪で引っ掻けちゃった。」
「・・・!!」「げえっ!!」
バァーーーーーーーーン!!
巨大風船がパンクしてまっ逆さまの3匹の猟犬達は、空気を吹き出して吹っ飛んでいく白いクマの巨大風船にしがみつき、そのまま一緒に吹っ飛んで行ってしまった。
「あ、」
「風船が萎みきった。」
「堕ちる?」
「ふごふごふごふご・・・今、中の私がこの風船を一息でぷぅーーっ!!とすれば・・・そんな暇はないね・・・」
ひゅ~~~~~~~
白いクマの3匹の猟犬達は、一緒に鬱蒼とした森の中へ墜落していった・・・
「・・・ん?」
「ここは・・・どこ?」
「ごめん。俺が悪かった・・・」
3匹は森の茂みから這い出ると、萎んだ巨大風船の中に入ったまま一緒に墜落していった、白いクマの行方を探した。
のそのそのそのそ・・・
「皆ぁーー!!ここよーー!!ここの近くよーーー!!ここの近くに、目的地の『風船と逝きし獣の世界』があるのよー!!」
頭に、シオシオになって萎んだクマ型の巨大風船を被った白いクマが満面の笑みを浮かべてやって来た。
「みぃーーーーーーーっ!!」
「げぇっ!!このシカ!!頭に4本も角が生えてる!!」
ポチは、目を疑った。
「あ!パァンちゃん!!本当に連れてきたの?!ゲストさんご案内・・・え?」
「あ?」
「あああああああ!!」
「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「殺さないでぇーーー!!」
「殺さねえよーーー!!」
4本角のシカとポインターのオムは、お互い威嚇して睨みあった。
「おい!とむ!」
「俺は『とむ』じゃねえ!!『オム』だっ!!」
「みーっ!よくも俺を生前にハンターと追いかけ回して!!崖下に追い詰めて!!殺そうとしたな!!
忘れねえよ!!茶耳の猟犬!!」
「ばれたか。ぶちゅ。」
ポインターのオムは、プンプン怒る4本角のシカの頬をおどけてキスをした。
「な、なにするだ?!」
4本角のシカは、おえええ!!と言って困惑した。
「だから、『ごめんね』のしるし。」
・・・とことんオムの奴、トラブルメーカーだよな・・・
ポチもセルパも、そんなオムに呆れてしまった。
「ぷぷっ・・・。ぷっ。気を取り直して・・・ようこそ!!私設『風船の癒やしの間』へ!!」
4本角のシカは蹄で、ガラッと薄汚い扉を開けると、
ぽーーーーん。
「ああっ!!大きなゴム風船が弾んできた!!」
ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん。ぽーーーーん・・・
この空間には大小いろんな夥しい数のカラフルなゴム風船がところせましと弾み、ぷくー!と膨らみ、ぷしゅー!と萎み、パン!パン!と割れていた。
「うわーーー!!1面ゴムくせえーー!!」
「風船だー!!風船だー!!遊んでいい?」
「わっ!!また割れた!!」
3匹の猟犬達は、1面の風船の『花畑』に終始うっとりとした。
ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!
みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!
きー!きー!きー!きー!きー!きー!きー!
「風船の音に混じって、獣達の声がする!!」
「ああっ!!お前らは!!」
「俺達が狩ってきた!!獲物の獣達!!」
ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!
みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!
きー!きー!きー!きー!きー!きー!きー!
「ご名答!!この動物達は、皆狩りで命を落とした者達だよ。
ほーら、あんたらがいつぞやに、ハンターの御主人様の命令で追いかけた獲物達がここに居るんだよ?!」
4本角のシカは、口で緑色のゴム風船をぷぅーーーーーーーーーっ!!と大きく膨らませて吹き口を離し、この『風船と逝きし獣の世界』の中をぷしゅーーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる!!と飛ばして言った。
ぶおおおおおーーーーーーーー!!しゅるしゅるしゅるしゅる!!
3匹が萎みながら吹っ飛んでいく風船を追いかけて、『風船と逝きし獣達の世界』の真只中に入っていった。
「お、お前!!」「よくも私を!!」「もっと生きていたかったのに!!」
ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!
みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!
きー!きー!きー!きー!きー!きー!きー!
「な、何だか物凄いブーイングだらけなんだけど・・・!!」
「自己嫌悪になりそう・・・」
「仕方無いじゃん!こいつら俺らが元々死に追いやった奴だし・・・」
「だから、君達を呼んだんだ。特に君達には怨念が強くて・・・転生も生まれ変わりも難しすぎて・・・
だから、この獣達が皆大好きな風船を使って交流して無事に成仏させて無事に転生や生まれ変わりを促したいんだ。」
「てんせい?」「じょうぶつ?」「どういう意味だよ?」
「だから、」
4本の角のシカはそういうと、ダンボールにいっぱい入っているゴム風船の束を、訳もわからずに疑心暗鬼な3匹の目の前に置いてこう言った。
「この風船をぜーーーーんぶ口でどんどん膨らませて、あの獣達にプレゼントしてちょうだい!!」
「ええ?」「風船膨らますの怖い・・・」
「ポチ!セルパ!つべこべブー垂れる前に、このシカのいう通り、どんどん膨らませてちゃおうぜ!!」
オムはそう言うと、ダンボールからまだ膨らませてない風船を取り出すと頬をはらませて、次々とぷぅーーーーーーーーーっ!!ぷぅーーーーーーーーーっ!!と息を吹き込んで膨らませ、爪で吹き口を結ぶと、ぽーーん!ぽーーん!と獣達に突いて放った。
「すげー膨らますの早い!」
「それより、あれを見ろよセルパ!」
「えっ!!」
なかなか風船が膨らまず、頬をパンパンにして顔を真っ赤にしているセルパは、悠々と風船を膨らませながらポチに言われて振り向いた時、獣達の豹変した光景に仰天した。
「みんな・・・大喜びしてる・・・感謝の声もある・・・風船ひとつで、『キモチ』が変わるなんて・・・
奇跡だ!!」
セルパは、感動で胸が熱くなり目に涙が溢れてきた。
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーーーっ!!
セルパはパワフルに膨らませていた風船を、大きく大きくはらますと吹き口を結び、セルパがかつて追い詰めた獣の1頭にぽーーん!と突いて渡した。
「ありがとう!!猟犬さん!!」
セルパの目から、ぶわあぁぁーー!!と感激の涙が止めどなく流れた。
「よーーーし!風船が割れる音なんかどうでもいいや!!どんどんどんどん膨らませてみーんなにあげてやらあ!!」
「風船割っちゃ駄目でしょセルパ!!よーし!!どっちがどのくらい多く風船を渡せるか、競争しよう!!」
「ポチ!!のぞむとこよ!!」
3匹の猟犬達は、次々と次々と次々と次々と風船を口で膨らませては、獣達に次々と次々と次々と次々と突いて渡しまくった。
「どうだい?この大量の風船はな、人間がイベントや嗜好やテレビのバラエティ番組や何やらで、パンクさせられ捨てられた風船達を、獣達同様に成仏させようと魔術で各地から取り寄せてこれも魔術でリペアして再生させたものなんだ。
ここでパンクしちゃった風船だってまたリペアして使ってるから、環境にもバッチリさ!!」
4本角のシカは、ダンボールから大きめの風船を頬をはらませて、ぷぅーーーーーーっ!!と口でパンパンに膨らませて、風船をどんどん膨らましている猟犬達へおどけてウインクした。
ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!ぶひー!
みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!みゃー!
きー!きー!きー!きー!きー!きー!きー!
獣達は猟犬達が突いて飛び交う風船に、我を忘れてキャッチし、突き、飛ばし、割れ・・・
お互い至福の、とても至福の時を過ごした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「これはいかん!!」
一方、白いクマは『風船と逝きし獣達の世界』の片隅に起きた異変に畏怖していた・・・
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