第58話
「まあ、為せば成る、かな? んじゃあ、一つ目の質問は――そうだな……あ、そうだ。さっき言ってた『トッカン』ってなんの事? 一応、僕を指してたってコトのは分かるけど」
「……ぶ、ゥッ………………」
あれ?
だんまり?
自分が使った単語の意味くらいだったら、ヘタに拘泥せずサラッと喋れそうなものだけど。
ん~、やっぱり僕は兄さんみたいにはできないって事なのかな。
って言っても、知りたい事があるのは変わらないのであれば方法を変えるしかないのでありまして、となればココは一つ『辰巳流聴取術』をば。
そーれグリッとな。
「ギっ、ぐヌぅウウウウウッ!!!!!!」
「こ・た・え・て・♪」
すこーしだけ力を込めて弛んだ脂肪ごと胸骨をグリグリすると、圧迫された胸から搾り出されたみたいな唸り声が出た。
これこそ、兄さんとは真逆な掃き捨てられる程度の非才たる僕が
さてさて、
ま、縄文とか戦国とかでだって結構スラスラと答えてくれてたしモーマンタイだとは思うけど、一応念押ししとこうか。
そ~れ、も一つグリッ☆
「――グギっ!? わ、分かったッ分かった!! 答える!! 答えるから、足を除けろ!!」
「ん、いーよー。じゃ、先に答えて?」
思った通り心配するまでも無かったってくらい簡単に素直になったので、引き続き優し~く微笑み掛けながら先を促してやる。
そうしたらやっと僕の誠意が伝わったのか、さっきから面白可笑しく百面相してたデブが蓄積した脂肪に埋めるように顎を引きながら口を開いた。
「と、特別、監視対象の、略称だ! っク、おい、喋ったぞ! その足を、早く除けろッ!!」
「いいけど、まだまだ聞きたい事があるから逃げたりしないでね」
一応の念押しと共に足を除けてやると、デブは折角した忠告も無視して、立ち上がるのももどかしいとばかりに弾けるような勢いで扉へと這って行った。
いやまあ、視線がさっきっからずっと扉の方をチラチラしてたから、どうせ逃げる算段でもしてるんだろうな~とは思ってたけど。
それにそもそも、父さんや母さんや兄さんみたいな大人物ならいざ知らず、僕みたいな何の取り得も無い木端中学生如きの言葉に従う人間なんて居るワケ無いんだから、寧ろこの反応は常識的だよね。
まあ、だからって見逃すつもりは無いけど。
ってなワケで、魔力強化した脚力でピョンッとデブを跳び越えつつ、そのままの勢いで扉ごとその頭上の天井を薙ぎ払うように跳び回し蹴りを一発。
すると、まるで障子紙でできてたみたいに扉とその周りの壁、部屋の内外の天井が一辺に崩れて瓦礫の山ができあがり、デブの逃走経路を完全に塞い――いや、一応僕が昇ってきた穴があるから、そこから逃げるワンチャン……いや無いか。
あんな懸垂もできなさそうなヤツがそんなフィジカル頼りの逃走経路なんて使ったりしたら、僕の
そんなワケで、コレでもう逃げようなんて考えないでしょ。『逃げる』ってのは逃げ場が無ければできないコトだからね。
さてさて、それじゃあ次は何を聞こうかな~ぁ?
「え~っと、んじゃ次は~、そうだな……あ、そうだ。ココって何? 見てきたカンジどうも普通の病院とはかけ離れてるように思うんだけど、何する施設なの?」
と、これまた絶対に答えを知っているであろう簡単な――且つ僕的にも知っておいて損は無い質問を優しくパス。
そしたらデブは、へたり込んだままコッチに振り返って大きく息を吸い込み、大きく口を開いて思いっ切り――
「だ、黙ッ――げブへっ!?」
――怒鳴り散らそうとしやがったので、思いっ切り蹴り飛ば――すと水風船みたく破裂しちゃうコト請け合いなので、足先で服を引っ掛けて壁へ向かって投げ飛ばしてやった。
勿論、十分力加減は考えてね。
まあ、それでも人一人分の重量なんて軽過ぎたからか、デブの飛んでった軌道は放物線じゃなくて直線になっちゃったし、顔面から壁にぶつかった所為で皮下脂肪タップリな身体が潰れるベチャッて効果音に交じって鼻の軟骨が折れる痛快な音も聞こえてきたけど。
でもまあ、しょうがないよね?
大声を向けてくるって事は、つまり威嚇してきてるって事で、威嚇するって事はコチラに悪意を向けてきてるって事で、要は敵なワケなんだから、そりゃ当然反撃の一つ二つ返されてしかるべきだしょ?
ぶっちゃけ耳障りですしお寿司。
え?
『先に足蹴にしといてよく言う』
『フィジカル無振りだのメタボリックジジイだの言っといて、チョット反抗され掛かっただけで暴力とか警戒し過ぎじゃね? ビビってんの?』
『っつうか、『だしょ』って微妙に噛むんじゃねえよ。そのネタは女子小学生にしか許されてねえんだよトカゲ野郎』だって?
いやいや、それを言ったら先に僕を地下深くへ閉じ込めたのはコイツラだし、警戒の方は『し過ぎるくらいが丁度良い』って生活が長かった所為だし、『だしょ』についてはワザとです。噛んでませんよアリャリャギさん。
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