第59話

 ……オホン。とにかく、話を続けましょうか。


「別に怒鳴らなくても聞こえてるからさ、ね? 早く答えてよ。『ココは何する場所なんですか』ぁ~、ハイ!」


 『ハイ!』と同時に笑顔を意識しながらよろよろと血塗れの鼻を押さえてヒイヒイと荒い息を吐くデブへと手を差し出す。


 でも、肝心のデブは何やら難しい顔に血走った眼で部屋中アッチコッチに視線を走らせていて、どうにも話なんて聞いてそうに無い。

 多分、未だに何か抵抗しようとしてるっぽい。

 逃げる気なのか反撃する気なのかは分かんないけど。


「…………あのさあ、僕言ったよね、『聞きたい事があるから逃げたりしないでね』って。なのにそれを無視して逃げようとするわ、質問とカンケー無いコト怒鳴り散らそうとするわ、挙句の果てには話聞かないわって、なんなの? 僕がドコまで笑って許せるか試してんの?」


 と、さっきからガマンしてたイライラを声に乗せて投げ付けてやると、漸くデブの視線がコチラに合った。


「――ヒィッ!? 、ッグ、ギゥウ、き、きき、貴様のようなガキ如きに指図される謂れなど無いわ! 一体何様のつもり――ヒァッ、ク!?」


 ………………うん、分かった。もう、喋る気無いんだなコンチクショウ。

 ああ、ああ、もういいさ。ええ、ええ、分かっていたともさ。

 タカが二度成功した程度のにわか聴取術とやらで無駄にプライドの高そうなクソデブジジイを好きに喋らせられるワケ無いってね。

 でも一つだけ、これだけは確認しないとか。


 と言うわけで、何故かガクガクブルブルとコチラを凝視し続けてるブクブクに最後の質問をする事に――って、くっさ!?

 汗くっさ!?

 元々臭いのが更にくっさ!!

 ストレスか!?

 ストレスなのか!?

 いやでもこの状況はコッチのがストレスなんだけど!?


「まあ、答えたくないってんなら別に良いよ。どうせ今までの質問なんて本題前の世間話だったんだし……ってワケで、今からする質問こそが本題なワケだけど、答えてくれるかな? 父さんと母さんと兄さんは今どうしてるの?」


「き、きさ、きき貴様、のっ、ふ、父母、だとッ!?」


 ――あ?


「オイ、誰が父さんと母さんだけっつったよ? 父さんと母さんと『に・い・さ・ん』はどうしたんだって聞いてんだよ」


「ヒッ――!??!!!」


 ったく、耳が悪いんだか頭が悪いんだか性根が悪いんだか知らねえけど、ヒトサマの大事な大事な家族を適当に扱いやがって。

 贅肉削ぎ落として喰わすぞ豚が。


 ……いえ、嘘です。

 そんなくっさい脂汗塗れのダルダル贅肉になんてもう触りたくもないですゴメンナサイ。

 なんかするなら干渉魔法でプチッとしてあげるから、それで勘弁してね☆


「さあ、答えろよ……ああ、もしかして、ココで黙ってればまた誤魔化せるとでも思ってるのか? 残念だが、この質問にはどうやっても答えてもらうからそのつもりでな」


 なんて言って急かしてやると、またまた『ヒィ!?』って喉が引き攣ったような声を上げやがったけど、どうやら今度は喋ってくれる気になったらしく、ワナワナ震える口が動いた。


「き、貴様の父親は……………………」


「……父さんは? 早く答え――ん?」


 みっともなく震える脂肪の塊に先を促そうとした直後だった。


 『ドゴゴゴンッ!!!!!!』と、何やらさっき僕が撒き散らしたのと似たような、まるでコンクリの壁を次々にぶち破っていくかのような派手な音が、さっき空けた吹き抜けから聞こえてきた。

 次いで聞こえてきたのは――



『――――グゥゥゥォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――



 魔界アッチでよく聞いた特有の魔力混じりな咆哮だった。

 と同時に、今まで以上に激しい頭痛が――



 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


「――――ッ……ハ、アハハ、ハァーッハッハハッハ!! 終わりだ御終いだ何もかも!!!!!!



 ――ッ、…………あ~あ、ったく。

 そりゃそうだよなあ。


 此処では御丁寧に瓶詰してまで死骸を保存なんてしてるんだから、図々しく息をしてやがるが飼われててもオカシクなんかねえよなあ?



 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


「貴様のッ!! 貴様の所為だぞクソガキッ!! この建物をッ、物理的にも霊的にも散々に荒らした貴様の軽率が招いた結果だッ!! 聞こえるだろうッこの咆哮がッ――



 イチイチうるせえなデブが。テメエなんぞに言われるまでもねえ。


 このオレが聴き間違うか。

 これはの声だ。

 間違いなく、な。


 となれば、さっさと見付けて殺さないとだが、さてさてドコに居るやら……いや、思いっ切り下から聞こえてんだけどな。



 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


「此処に収容されている特監は貴様だけではないッ!! 貴様などよりもずっと危険な存在が封印されていたのだッ――



 ん~……あ、見付けた。

 魔力ソナーに反応アリだ。

 やっぱし地下の――ココは、さっき見た保管庫の近くか。

 サイズはまあそれなりで人型、オレのとは比べるまでも無くちゃちい角があるから、多分鬼種か……?

 最近遭遇率たけぇな……


 あ?

 なんかデブが懐から端末取り出して、どこぞのモニタリング映像見せびらかしてきやがった。

 ……やがったんだけど、なんか画面が一瞬暗転してまた戻ってを繰り返してすっげえ見辛い。

 そう言えば前に見た動物番組で、『動体視力が人間よりも優れている動物達にとって、テレビやパソコンの画面は点滅して見える』とかってやってたっけ……まあ、見えないワケじゃないからいいけど。


 ってかコレ、今探知したヤツじゃね?

 見た目的に。



 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


「これこそはッ、かの有名な大江山の子孫、数世紀の時を超えて――



 などと宣いつつ、半狂乱で画面のを見せ付けてくるデブ。

 いやまあ、今スグそのゴミは片付けてやるから、ちょいとばっかしお待ちになって。


 ――んじゃ、照準。

 狙いは勿論、さっきからギャアギャア喧しい

 エネルギーは……まあ、魔力だけでいいや、が騒ぐからイライラして有り余ってるし。テキトーにツッコんでやりゃ良いだろ。

 んじゃ、はいドーン☆



 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――オギャッ!?



「現代に蘇った本物の鬼がッ、その封がッ、貴様の所為で――――………………あ?」


 うっし、静かになった。

 やっぱし、この程度で消し飛ばせるだったか。


 とにかく、コレで続きが聞けるね♪

 あんだけペラペラ喋ってたんだから、いい加減質問も答えてくれるよね?

 ね?

 ホラ、静かになった画面と睨めっこしてないでさ?

 ね?

 ねッ?

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