第44話

 あとどれくらいこの時代に居られるのか分からないんだから、あんまり時間を掛けるのはマズいし――って、あ!

 そうだよ、時間!


 今まではもう完全にnot現代ってカンジだったから忘れてたけど、この時代なら今がいつなのか簡単に分かるじゃん!

 ああ、もう……ホントもう、なんでこんな大事な事を忘れるのか。


 ……ま、まあ、今すぐどうなるってワケじゃないだろうから、別に後回しでもいいけど。

 どうせ金見に入ったら、トラックの会社とか父さんや母さんの居場所とか、イロイロと探りに行かないといけないんだし。


 うん、そうだ。

 問題は無い。

 無いったら無い。

 イイネ?


 そんなふうに一人で取り留めの無い事を考えていると、下の景色が変わってきた。

 勿論、延々と続く常時動き続ける万華鏡じみたイルミネーションの真上から外れたワケじゃないから、変わったのはあくまで両脇にあった畑とか田んぼの方だけどね。


 で、その畑や田んぼだけど、今は道路に接する部分をガッツリ削られてからコンクリで固められた山だね。


 それから、もう少し進むと河があって、その先はトンネルになってるのか道路が途中で途切れてる。

 まあ、チョット視線を上げればすぐそこに道路の続きが見えるけど。


 ……え? 『今って、時間設定夜だろ? なんでそれで呑気に景色語れんだよ? “暗闇でも数百メートル先を見通せる俺SUGEEE”とでも思って欲しいのか?』


 まさか。

 そんなワケないよ。

 だって、僕が魔界アッチに落ちてからできるようになった事なんて、同じ状況に放り込まれたら誰でも必ず習得するような事ばっかりだからね。


 その証拠に、僕がも元人間だって話だし……

 まあ、所詮は確証の無い自己申告だから、大した信憑性は無いケド。


「…………。確か、山とか河とかを幾つか超えた辺り――だったっけ? あの、場所まで……」


 脳裏に浮かんだムカつく顔を拭い取るべく口に出した独り言の所為で更にブルーになっちまった。

 チッ……


 いやまあ、いいけどね別に。

 片方はもうドコにも居ないし、現場の方だって最終的には消し飛ばす事になるかもだから、もうどっちについても必要以上に拘る気なんて無いし。


 そうさ、どちらももう終わった事だ。

 どうでもいいどうでもいい……


 な~んてトリップしてる間にも身体の方はキチンと自走を続けていて、今は――なんだろう……?

 ファミレスとかパチンコとかの派手なネオンとか、目立つようにライトアップされてる民家っぽいのとかが見える。街って言うより町ってカンジだ。


 前に通り掛かった時は、森を見かけたような気がするけど……

 一応、世紀単位で時間が経ってるんだから、環境くらい幾らでも変わっちゃうか。

 それに、この辺が本当に前通った場所かなんて確証は無いし。


 でも、こうやって風景が変わってくると、『ああ、ちゃんと進めてるんだなあ』って気になれてイイね。

 さっきまでの、色以外は代わり映えの無いキューブクライムとは大違いだよ。


 まあ、今回は逆に星だけが浮かぶ夜空を背景にした紅白のイルミネーションがメインだから、色だけは殆ど代わり映えしないけどね。

 にしても、ホントに金見まで一〇〇キロなんだったら、もうそろそろさっきの街みたいな明かりが見えてきてもいいと思うんだけど……


 と、町を横断するイルミネーションを見下ろしていた視線を持ち上げて進行方向へと巡らせると、畑や田んぼが広がる農業地帯を挟んだ向こう側に小ぢんまりとしたアパートや一戸建てが立ち並ぶ住宅地が見えてきた。

 この住宅地が所謂郊外に当たるのなら、もう少し進めば金見の繁華街があるかも……ってトコまで思い至った時点で、なんか身体が勝手に加速した。



『――ゴギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア♪♪♪』



 なんか、妙に楽し気な奇声が聞こえる気がする。

 ナンデダロナー。


 ……ゴフン。

 ヤレヤレ、舞い上がってた。

 まだ帰れたワケでもなければ、金見の街が見えたってワケでもないってんだから、冷静に冷静に……スー、ハー、スー、ハー。

 フー……うん、落ち着いた。さて、いざ往かん、天竺へ――じゃない、金見へ、だ。


 などと、傍目にはどんな状態に見えるのか全く意識しないまま進み続けたワケだけど、見えてきたのは予想通り――と言うか、期待通りとでも言うべき見慣れた繁華街の姿だった。


「――――!! 、ハッ……ハハ、アハハハハハ!!!!!! やったやったやっとだッ!! やっとッ……着いた。やっと……帰ってこれたんだ……っ」


 ああもう、ヤバい。

 何がヤバいって、自分でもどうしたらいいのか分からなくなるくらい感情が定まらないのはヤバい。


 今更諄いだろうけど、僕は魔力を自分の内的エネルギーってヤツで生成している。

 で、その内的エネルギーってのは、魂とか精神とかって呼ばれてる『物体として見たり触れたりはできないけど、人間を内側から動かしている物』の事を指してるんだけど、コレには件の感情ってヤツも含まれてるワケですよ。


 だから、感情が不安定になると魔力操作もソレに引き摺られちゃうワケで、今の泣きたいんだか笑いたいんだか判然としない状態だと――



ヒュ――――チュドッ――――!!!!!!



 ……こんな具合に、殆ど暴走してるような状態になっちゃったりする。


 いやね、別に失速して墜落コースとか、魔力暴走からの爆発コースとかにならない分だけマシだけど、ココって魔界アッチじゃないんだから、なるべく抑えた方が良いよね?


 ホラ、速度上がった所為で耳鳴りみたいなキーンって音が鳴り止まないし、風圧も凄まじく凄まじい事になってるし……


と、分かってはいたんだけど、チョット抑えられそうにありましぇ~ん。


 だって金見市だよ?

 僕らの生まれ故郷にして、散々待ち焦がれた愛しの我が家が待ってるんだよ?

 まあ、我が家って言っても、僕らが住んでるのってマンションの一室だけど。


 じゃなくて、その……アレだ。

 僕はさ、事故に遭う前の――父さんが居て、母さんが居て、兄さんが居る、そんななんでもない当たり前の日常に戻る為に頑張ってきたんだよ。


 だから、それが具体的な形として見えてくると、『ああ、報われるなあ』ってなるじゃん?

 テンション駄々上がりじゃん?


 なので、チョットくらい羽目が外れてもしょうがないのです。

 ええ、しょうがないしょうがない。

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