第43話

 時計が無いから客観的にどれくらい経ったのかは分からないけど、体感で計数分ほど無駄にした気になっていた僕は、気持ち多めに練った魔力で今までよりも高度を取って飛行開始。


 当然ながら高度計なんて便利な物は持ってないので縄文時代の時と同じく目測になるけど、僕が今飛んでるのはザッと五〇〇メートルほどの高さ……かな?

 周りに比べられるような物は無いし、これだけ地上から離れてるとあんま自信ないケド。


 飛行機とかヘリとかとは比べ物にならないほど低空だけど、フツーに魔力放出した時の速度が鳥を追い抜くくらいだったから、この高さでも風とか騒音とかの影響は大丈夫でしょ。

 それに、五〇〇メートルもあれば大抵の建物は見下ろせるだろうしね。


 スカイツリー?

 いや、方角的に逆方向だから。

 縄文時代で飛んだ時は太陽を背にした左手側へ向かったから。

 大体、あんな目立つ建物があるなら、もう見付けてないとオカシイから。


 ……ノホン。

 とまあ、こんなカンジでスィーッと飛んでるワケだけれども、ムダでムイな思考に反して街はもう目の前にまで迫ってきたりする。

 って言うか、もう眼下したはアパートやらマンションやらが立ち並んでる住宅街だし。


 ……ん?

 あれ?

 ちょっと待って。


 『取り敢えず~』なんてノリでココまで来ちゃったけど、街まで行ってそっからどうすんの?


 我ながら今更過ぎるとは思うけど、でも実際、今向かってる街って『キューブ侵入後の出現位置は前回の退出位置と同じ』の法則的に見知らぬ何処かなハズだろうし。

 だからって、『じゃあ最初っから、あんさんが帰りたがっている方の街を目指せばよかったんとちゃいまっか?』なんて言われても、今までのキューブ探索――中でも特に縄文時代での右往左往の所為で、まず現在位置から分かんないし。


 一応、なんとなく西に向けて飛んでたのは憶えてるけど、間の悪い事に今は夜で新月らしくて太陽も月も見えないから、今進んでる方角すら分かんないし……


 う~ん、星座で方角が分かれば良かったんだけど、天体は選択科目だったからなあ――いや、案外なんとかなるか……?


 確か、アパートとかマンションとかのベランダって、日差しを受け易いように南側に造られてるハズだよね?


 そりゃあ中には例外もあるだろうけど……でも、基本的に『民家のベランダは南側』ってカンジなハズだから、それらを目印にしていけば方角は分かりそうだ。


 それに今思い付いたけど、街から別の街にまで伸びる高速道路とか国道とかには『○○まで何キロ』って看板があったりするから、それを頼りに僕の住んでた金見市かなみしまで戻れるかもしれない。


 ……なんか、大丈夫な気がしてき――っと、そろそろか。


 バサリと翼を翻して速度を殺してから、中空でホバリング。

 そうやって見下ろす先にあるのは、『天を突くような~』なんて形容は勿論付かないほどほどの高さなビル達。端的に言っちゃえば、見覚えの無いどこぞの地方都市だった。


 こうして見下ろしてみると、一際大きなビルの近くに駅とか道路とかがあって、まるでクモの巣――じゃあないか。

 そこまで入り組んではないから、精々、あみだくじ辺りが妥当かな。


 まあ、『一際大きい』なんて言っても今居る位置からじゃあ、屋上から伸びるアンテナみたいなのですら遥か彼方ってカンジだけど。


「さて……んじゃ早速、それっぽい看板でも探すとしますかね」


 呟いて向き直った方角は東。

 これまでに視界の端で捉えていた建物の窓やベランダの位置から割り出した曖昧な指針だけど、丁度ソッチ方面へ伸びてる太い道路があるから、それほど間違ってもいないみたい。


 間違っていようがいまいが、最終的に金見へ辿り着ければそれでいいんだけどね。


 そんなワケで、看板の文字を浚い易いように気持ち高度を下げながら移動開始。

 眼下に並ぶビルやらネオンやらが撒き散らす光の奔流の中でも屈さずに自己主張している街灯達が照らす四車線をなぞる。

 途中、街灯に紛れるようにしてポツポツと立っている青地に白文字の反射板へ視線を巡らせてると、進行方向側の矢印に見覚えのある名前が――


「お! あった金見市! 距離は――百十キロね……結構遠くまで来てたんだなあ……」


 ま、今までは距離以前の問題だったんだからスンバラシイ進歩だけどね、などとポジティブシンキングで締めつつ、速度を上げる前段階として高度を少し上げる。

 こうしないと、騒音と衝撃波で近くのビルがメチャメチャになりそうだからね。


 んじゃ、加速。

 ドヒューン!!


 うんうん、人間界での――魔粒子の無い場所での魔力操作にも慣れてきたおかげで、ある程度は魔力の消費ロスを減らせるようにはなってきた。

 それでもやっぱり、魔界アッチで同じ速度出す時の数倍は注ぎ込まないとダメだけど。


 感覚的にはもっと減らせそうな気がするけど、その辺はまだ要練習って事かなあ、とか考えつつ、さっき見た青白の看板に描かれてた矢印方向へと道路をなぞる。


 既に街からは出ていて、脇を畑やら田んぼやらに囲まれたインターチェンジに差し掛かってたりするけど、単純な十字型だったんで一瞬も迷わず真っ直ぐ通り過ぎちゃった。


 夜は夜でもまだ深夜ってワケじゃないのか、立体道路には渋滞が起きない程度に車が犇めいていて、行き交う白いヘッドライトや赤いテールランプやらがイルミネーションみたい。


 これでさっきの街がもっと大きかったりしたら、あっちこっちから伸びる道路でそれこそクモの巣化してたんだろうから運が良いね。

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