第26話

 どういう理屈かは知らねえが、に、人間が……!

 どっからどう見ても人間にしか見えない女陰陽師さんがッ、ま、魔力を、指先から魔力を出しやがったんだよッ!!!!!!

 なんだ、なんだッ、なんなんだッ!??!!!  共みてえに魔法でも使う気か、アァン!?!!!!


 だが、空気中にまだ漂ってるソナーの魔力残滓が干渉してるのか、もの凄い形相で力みながら集中してるっぽいのにロウソクの火みたいな量しか出せてねえ。


 魔力には別の魔力に触れると打ち消し合う性質があるから、それが原因だろう。

 ソナー用の薄い魔力とは言え、オレの魔力が満ちた空間、しかも魔粒子の無い人間界で魔力を出せる辺り、魔力や魔法の扱いに関してはそれなりに鍛えてるんだろうが、このままなら大した魔法は使えないだろうし、別にそう声を荒げる必要も無い――


「――悪鬼覆滅ッ!! 急急如り――


 ――ワケあるかッ!! ザッけんな、バカヤロウッ!!!!!!


 ほっそい指の先に灯る塵みたいに薄弱な魔力を見た時の衝撃が矮弱な静電気に過ぎなかったと思える轟音が脳裏を満たした時、既にの身体は動き出していた。


 無音――ではなく音を追い抜きそうな勢いで距離を詰め、さっきまでオレが立ってた辺りに焦点を合わせてる虚ろな眼球がオレを捉える前に、突き出された指先を手ごと掴み取り、そこに灯った薄黄色の魔力へ自分の黒い魔力を叩き付けた。


 女陰陽師のそれを水滴とすれば濁流のような量と勢いの魔力は、魔力同士が干渉した時に伝わる電流じみた刺激を知覚する間も無く灯火を消し飛ばし、その余波だけで周囲を黒く染め上げた。


 それでも、なんとか魔力を練り続けているのか、女陰陽師の人差し指から断続的にパチパチッと静電気みたいな感触が届いて煩わしい。もうやめろっての。

 いや、こんな下級の雑魚共にすら劣る魔力の始末やら、それに伴うセーターの静電気みてえなのやらなんてどうでもいい。そんな事より優先すべき事がある。


「オイ、なんで人間がこんなモノ使える? アンタ今、何しようとしたんだ? 知ってる事全部隠し立てせず正直に喋りやがれ」


 オレの感情に合わせて魔力がバカみたいに湧き出してくる所為で力加減が難しい。

 このままだと、握った手をレモンみたいに絞り潰してしまいそうだ。

 そんな懸念を他所に、オレの言葉を聞いた辺りで漸くコチラへ焦点を合わせられたらしい女陰陽師は、声になってない悲鳴を上げながら下がろうとして、捕まった手に引っ張られてつんのめってる……コイツ、絶対話聞いてねえだろ……


 苛立ちが更に魔力を呼んだのか、一瞬だけ力加減が狂った所為で握ってる手の骨が軋んだ。


「――ヒッ!! あ、ああ、いやぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ハッ、単なる呼吸音だったのが悲鳴になりやがった。

 やっぱし、この高音は耳障りで耳障りでたまらねえなあ、オイ。

 余りにも不快だったんで、思わずその耳障りな壊れたラジオみてえなヤツを、オレと後衛共の間に割り込もうとしていた壁役の武士へ投げ付けてやった。


「――ウホォアッ!?」


 悲鳴を上げながら飛来してきたソレを、元から毛深い顔してる武士はまんまゴリラみたいな奇声を上げて受け止めようとしたが、結構な勢いが付いていた所為で踏ん張り切れずにラジオと一緒に吹き飛んで、十メートルくらい水平に滑空してから受け身も取れず伸びちまった。

 ついでに、ラジオの方は投げた時に脱臼した右肩の痛みと衝突の衝撃で気を失ってる。


 ま、静かになったから良いか。脱臼なら自分のを何度かハメ直した事もあるから簡単に治せるし、『後遺症を負わせるような怪我』には入らねえだろ。


 それに、他にも話が聞けそうな連中は残ってるワケだしな……


 ぶん投げられて伸びてる二人から視線を切り、視界の外でなんか足掻いてたらしい後衛職共へと向き直った。


「――そ、そんな、霊力が掻き消されるなんて!? なんて強力な瘴気なの!?」

「――クゥ!? 莫迦な!? 物の怪風情の力で我が法力が封じられるなどとッ!!」

「――チッ、駄目だ、此方も術が発動できん!! 此処は一度退いて体勢を立て直すべきだ!!」


 巫女さんも坊さんも男陰陽師も、それぞれ影絵でもしてるみたいにクチャクチャと印を組みながら、見てて気の毒になるほど弱っちい魔力を手先に灯していやがる……ってだから、静電気みたいにパチパチ来るからヤメロッ!


 どうやら、後衛職共は全員似たようなレベルで魔力が使えるらしいな……取り敢えず一人残して、他は寝ててもらえば良いか。

 事情聴取は一人ずつって相場が決まってるしな。


 じゃあ、ドレを残すかねえ……世の中的には、巫女さん辺りが妥当か?

 でも、キィキィ鳴かれんのは耳にクるからゴメンだしなあ……

 かと言って、上から目線がデフォっぽいオッサン共を相手にすんのも面倒だし……


 にしても、こうして改めて聞いてみると、人の声って一人一人全然違うもんなんだなあ。

 男女や年齢は勿論、体格やら体重やらでも個体差があるっぽい。

 同じ性別でも、年食ってたるヤツは少しだけ声が高めだったり、身長が高いほど声が低かったり、とか。


 あとテレビとかで聞き齧った雑学だけど、感情とかストレスとかで体臭が変わるってのもホントだったらしい。

 どんな理屈でこうなるのかは忘れたけど、元々汗臭かった連中の臭いが更に強まってるし。


 まあ、耳障りなのもクセえのも一応は許容範囲内から、どうでもいいけど――

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