第27話

「――全員退けェッ!!!!!! 儂が殿を務める!! 必ず生き延び、上様に御伝えするのだ!!」


 ――っと、チカラ封じられてるって分かって思い出したみてえにガタガタ震え始めていた後衛共をどう料理してやろうか考えていたら、三人の内で一番の年長者っぽい武士が存外近くにまで駆け付けてきていた。


 しかも、ちゃっかり刀なんて握ってやがる。

 見てなかったケド、多分その辺に落ちてる持ち主不明のブツでも無断借用したんかね?

 この辺は何気に戦い慣れてるよな……


 まあ、後ろに続いてる武士も同じように刀持ってるから、この時代じゃ『戦う為なら死体から武器を奪っても構わない』なんてのは戦闘経験関係無しの常識なのかもしれねえが。


「あ、淺沼様、無茶です!! 某も残りまする!!」


「ならぬッ!! これほどの大化生を前に何ができる!? 若輩の助けなど不要だ!!」


「し、しかし!!」


「くどいッ!!!!!! 早く往けッ!!!!!!」


 遅れて駆け付けた若い武士の申し出を反論も許さずバッサリするチョンマゲ……やっぱ、オッサン残すのは却下だな。人の話なんて聞きそうにねえ。

 なにより、あの古めかしい喋りはクソッタレなを思い出して虫唾が走る。

 これ以上聞いてたらかもしれん。


 そんなワケで、オッサン武士が後ろの部下っぽい武士に意識を裂いてる間に間合いへ踏み込み、中段に構えられた刀を奪って二度と使えないようグネグネに捻じ曲げてやった。


「「「――なッ!??!!!」」」


 刀を取り上げられた本人だけでなく、それ以外の連中も上げた声が見事にハモった。

 ついでに、そうやって驚いて硬直してる隙に眠ってもらおうか。


 捻じれた刀を放り捨てて手を空にし、そのまま丸腰中年の目が未だダメになった刀を追ってる隙に、間髪置かず白髪交じりのチョンマゲごと頭をバスケ掴み。

 そんで、そこから同じように頭頂部の肌を晒してる坊主のオッサンに向けて投擲、ポイッ。


 ……いや、正確には『ブンッ』だったが、コレでも一応鞭打ちとか頸椎損傷とかにはならないよう気を付けたから、そう酷い事にはなってねえよ?

 せいぜい、鳩尾にボディープレス(横方向)を喰らうハメになった坊さん共々ノックダウンする程度だろうさ。


 さて、残るはか――


「あ、淺沼様ァー!! 貴様ァ、よくもォッ!!!!!!」


 ……つっても、残った武士と男陰陽師を同じように処分して、巫女さんに事情聴取するだけだがなあ。


 問題があるとすれば、敵意満々だろう巫女さんにどうやってになってもらうかくらいだが……手足を外す――のはダメだな。

 脱臼ってヘタすると意識が飛びそうになるほどいてえから、話なんて聞ける余裕なくなりそうだし……ココまでボコボコにしておいて今更猫撫で声で説得ってのもどうかと思うし……ん~……


 なんて考えながらも、身体の方は自動的に飛び掛かろうとしてた武士から刃物を没収し、そのマヌケ面を掴んで男陰陽師へ投げ付けてるんだから、我ながら手際の良さに惚れ惚れするね。


 コレで残りは巫女さんだけ―――って、え? ……忍者?


 ああ、アイツなら武士二人がグダグダ言ってる間に、コソコソと自分から翼の射程範囲に踏み込んでくれてたから、皮膜でブッ叩いてフッ飛ばしたよ。今頃はその辺に散ってる臓物枕の上でオネムなんじゃね?


 んな下らねえ事より、これからどうするかだ。

 まあ、ココは、この心臓ドッキドキで喧しい巫女さんへ降伏勧告でもやっとくか?


「……繰り返すが、見ての通りコチラにはアンタらを殺すつもりなんか無い。大人しくオレの質問に答えるなら、このまま見逃してやるが――どうするよ? 仲間やアンタが生きて帰れるかは、アンタの振る舞い次第だぞ?」


 なんか、口を開いてみたら降伏勧告でも『ゴギャァァァアアアアア!!!!!!』でもなく脅迫が出てきたが、勿論、コイツらを殺す気なんてサラサラ無い。

 もし、これで戦意が消えないようなら、オレはこの戦場を離脱するつもりだ。


 これ以上やり合ったらそろそろ加減できなくなってきそうだし、それで殺人を犯して家族みんなに嫌われるのは絶対に避けたいからな。

 ついでに言えば、連中が拠点にしてる村だか町だかでも見付ければ、オレの疑問に答えてくれる心優しい誰かに巡り合えるかもしれねえし……手間だけど!

 さあ、返答や如何に!? ……なんちゃって。


 と、オレが見守る中、巫女さんが弾けるように動いた。

 なんと、この人は荒れた地面にベタリと正座して、三つ指どころか額まで地面へ着けつつの深い土下座を敢行したのだ。

 コレには流石のオレも呆気に取られたが、巫女さんはその体勢のまま言葉を紡ぎ出した。


「……しょ、承知致しました! 御身が何処の霊神妖魔かは存じ上げませんが――


 ――ムカッ! 妖魔ってコンニャロウ、人を人外みたいに……


「――その荒ぶる御霊を御鎮め頂けるのでしたら、未だ若輩の身ではありますが――


 ――別に荒ぶってねえしッ! 言い掛かりだしッ!!


「――全身全霊粉骨砕身の覚悟を持って御尽くし致します! ですから、どうか――


 ――『ですから、どうか』だと?

 ク、アッハハハハハハハハハハ!!!!!!

 オレが自分で持ち掛けた約束破るってか?

 フッ、フフフフフ……ホント、いい加減にしろよ。


「んなグダグダ並べ立てんな、うっさいな。まず、オレはんなふうに怖がられなきゃならねえようなバケモノじゃねえし、自分で言った事を覆すほど不誠実でもねえっての。分かったら、これからは二択で答えられる質問には『はい』か『いいえ』だけで答えろ。あと顔上げろ気持ち悪い。ほら返事は?」


「は、はいっ……」


 真正面から凄まれて震えていた巫女さんは、オレの言葉でおずおずと顔を起こしたが、その顔は見てて可哀想になるくらいに青褪めていた。

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