第25話

 まあ、いいや。取り敢えず、こんだけ隙晒してくれれば楽勝だし。

 じゃ、ジッとして――


 シメシメと舌舐めずりしつつ、両足に魔力を集中。

 ただでさえ変身で強力になっている脚力を更に強化した僕は、それこそフィクションじみた超スピードで忍者へ肉薄した。


 さて、まずは背中の忍者刀と何か仕込んでそうな籠手と脛当て、それと腰帯と懐の『ソナーで探知できない何か』で膨らんだ巾着、その辺りは全部没収しましょうかね――


 両耳を押さえたまま僕の接近にさえ気付けていない忍者へ、指の第一関節から先が鋭い鉤爪に置き換わった両手を閃かせる。

 甲殻類みたいな外見のをそのゴツイ殻ごと真っ二つに引き裂いてきた鉤爪は諸々の止め紐をあっと言う間に切り裂き、諸々が重力を思い出す前に回収。


 預かった凶器達は纏めて尻尾で巻き取って保持。

 いや~、この尻尾がまた長いクセにメチャクチャ器用に動かせるんでゲスよ。

 それこそ象の鼻みたいに。

 これでマヌケなへっぴり腰のまま丸腰にもなった忍者になんて用は無いね。さ、次々!


 そんなカンジで、武士達からは刀と脇差と甲冑を、御坊さんからは錫杖とだぼついた袖に入れた御札や数珠を、陰陽師な二人からは手と袖と懐の呪符や式神っぽい紙切れを、巫女さんからは梓弓と懐の鈴をクリスマスツリーみたいに何個も連ねたハンドベルを、それぞれ没収。


 勿論、武装解除だけで掠り傷一つ負わせてない。

 そんなのは見るまでもなく、血の匂いがしないって時点で疑いようが無い。


 よし、完璧! これで終わりだね――と、風のように八人の合間を駆け抜けた僕は、チョットした達成感を胸に彼らから少し離れたトコで振り返った。



「――な、なんとぉッ!??!!!」

「「――キャァァァアアアアア!?!?!!」」

「な、何が起きた!? 奴は何処だ!?!!!!」



 ……見なきゃ良かった。


 そこに在ったのは鎌鼬の物取り版とでも言うべき所業だった――って言うより、普通に鎌鼬で良いのかもしれない。

 なにせ、僕が丸腰にした八人全員の服が鋭い鎌で切り刻んだみたいになっていたんだから。


 え? 『ブラボー! ブラボー!!』? 『さっすが、ぐう有能!』? 『なんだよ、ちゃんと分かってんじゃねえか。そちも好きよのぉ』? どの辺が!?


 コレを引き起こした元凶はワザワザ名言するまでもなく、アホみたいな切れ味の鉤爪だね。

 きっと、懐を探る時に引っ掛けちゃったんだ。全く抵抗無く切れたから気付かなかったけど。


 念の為、もう一度五感と魔力とを併せて改めて確認した所、切ってしまったのは服だけみたいで、身体の方はやっぱり無事らしい。

 あとどうでもいいけど、武士達って押さえられてた和服や袴が解放されるからか、甲冑剥いでからの方がシルエット的にデカく見えるフシギ。


 それから、女の人達の声がやけにキンキンと頭に響いて耳障りだ。

 オッサン達の方は共の断末魔に近い低めの音程なおかげか、それほど苦にはならないのに……

 そう言えば、前に見た動物番組で『黒板を引っ掻く音や悲鳴などの高音波を不快に感じるのは、それが人間の祖先である類人猿にとって警戒音に相当する為』とか言ってたっけ。


 何にせよ、酷い絵面なのは覆しようが無い。特に犠牲者に女の人が居るってのが酷い。

 別にフェミニストってワケじゃないけれど、世の中的に女性の扱いは丁寧にすべきって認識が大多数なのくらい弁えてたつもりだったからね……

 過去形にしなきゃいけないのが悲しい……ホント、何やってんの、僕。


 ゴキゲンから一転して駄々下がりなテンションをどうにか持ち直しつつ、『でも、コレで一応の無力化は済んだんだから、質疑応答に持ってけるんじゃね?』って事で対話に挑戦。


「――あ、ア、あ~……コホン。え~っと、皆さん。取り敢えずコレで、み、皆さん方に勝機なんて無い事と、コチラに害意が無い事は分かって頂けたと思うんで、話を、聞かせてぇ貰えないでしょうか?」


 頭に『テステス』って被せそうな咳払いに続いたのは、吃音交じりの激しくたどたどしい自信なさげな言葉だった。いや、『ゴギャァアアア~』にならなかっただけマシかもだけどさ……


 ……ハァ、今までアレだけイロイロあったのに、大人数を相手にすると無駄に委縮してしまう癖が未だに抜けてないなんて、情けないを通り越して切なくなってきた。


 そりゃさあ、元々人間界コッチに居た頃は、不特定多数の前で喋るってのが大の苦手で、授業中に指されただけでもガッチガチに緊張しちゃうぐらいだったけれども。

 それでも、魔界アッチではどんなに大勢のを前にしても『ゴギャァアアア!!!!!!』とか『○ねぇエエエ!!!!!!』とかって臆せず言えてたのに……


 しかも、僕の自信無さ気な調子に付け入る隙があるとでも思ったのか、お目々まん丸だった連中の戦意が回復してきていた。

 いや、あの、武器無いでしょ……?


「こ、この慮外者がッ!!!!!!」


 最初に動いたのは、前衛後衛の位置が逆転して一番近くに居た女性陰陽師だった。


 確か、ソナーで探知した時には相当怯えていた内の一人だったと思うのだけど、『頭に血が上ってます。火気厳禁』みたいな顔を見る限り、怒りで恐怖が吹き飛んでるみたい……

 いや、もしかしたら、竦みそうな身体を怒りで誤魔化してるってカンジなのかな?


 ……いや、分からんケド。

 なんにしろホント、ゴメンなさい。


 でも、武器も持ってない上にそんな貧弱そうな細腕で何する気――と思った瞬間、


「――――ッ!?!!?!」


 僕は脳天に雷でも落とされたみたいな衝撃を受ける事になった。

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