第24話

 さて、この状況……一体どうしたものかと、その場で動かないまま唸っているのだけれど、そんな僕になんて御構い無しに最大限の警戒を敷いてるのか、冒険者(仮)方も陣形を保ったまま微動だにしない。


 もし予想通りに、彼らの目的がさっき吹き飛ばしてやったにあったのだとしたら、『獲物を横取りされた~』とか難癖付けられてチョット面倒な事になるかも。

 いやでも、はその辺の肉とか骨とか血の海とかに紛れちゃってるんだから、僕が容疑者認定される心配なんてするだけ無駄か。


 でもそれだと、『じゃあ、連中は何に警戒してんだ?』ってハナシになっちゃうな。

 ソナーには連中以外に人間大以上の動体は掛かってないし、五感の索敵にも掛かってないから、あのの同類が潜んでたりはしなさそうだけど……


 一応、魔界でも五感やソナーを擦り抜けられるヤツが居なかったワケじゃないから、別に驚かないし、コッチにはそんな厄介な連中を漏らさず察知して下さるCHOKKAN先生もいらっしゃるんで問題無いネ――


 なんて、とある懸念から全力で顔を背けていると、和風パーティが動き出した。

 多分、現実逃避の思索に入ってから数秒は経っているハズだから、コチラをしっかり確認した上での行動なんだと思う。アイコンタクトしてたし。


 なんと、忍者さんが計五枚もの手裏剣を投げ付けてきたんだよ!

 しかも、ご丁寧に後ろに続く一行の射線を開けるように左へ弧を描いて前進しつつ!!


『ふざけんなッ!! イタイケな中学生に向かって凶器投擲とか、忍道をなんと心得るかッ!!』なんてニュアンスの『ゴギャァァァアアアアア!!!!!!』が喉元にまで上ったけど、そこでグッと堪える。


 何故って言われれば、そりゃアレだ、彼我の戦力差ってヤツですよ。


 もしココで、苛立ち交じりの力任せで暴れたとしよう。


 無意識の時点で、身長四メートル近くある身体に同じ長さの金棒や言語を操れる力や魔力、知能なんかを併せ持つを一瞬でミンチにしちゃった僕が、魔力も無い上にそのの半分以下のガタイしかない連中を相手にだ。


 その結果引き起こされるのは血みどろの愁嘆場――或いはもっと雑に『ネギトロ追加、ヘイお待ち!』かな?

 まあ、碌な結末じゃない事だけは確実だ。


 ココは頭を冷やして穏便に済ませるべき――でも、だからって黙ってボコられたくはないし、コチラの疑問に答えてもらいたいから、連中の無力化は必要だと思う。

 問題は、縄文時代の時みたいに相手が一人でも奇襲できるワケでもないって事か。


 さっきはああ言ったけど、ソナーに掛かった連中の身体を知覚する限り、女の人も混ざってるような後衛職はともかく、武士っぽい人達の身体のゴツさは縄文時代に出くわした野生児紛いと比べても一際だ。


 そもそも縄文人に武士、どっちも身長だけなら中学生の僕から見てもそんなにデカく感じないのに、纏った筋肉が分厚い所為で僕より一回り以上は大きく見える。

 特に武士は、ガッチガチの甲冑まで着込んでるから中々に圧巻で、魔界に行く前の僕だったら手も足も出無さそう。


 それに、後衛職の人達や忍者からも弱々しい印象は全然しなくて、まさに『こう言うんを生業にしとりやすさかい、ナメとったらいてこましたりマスで~?』ってカンジがする。


 要するに、全員纏ってる雰囲気が物騒且つ場慣れしているのだ。


 そんな戦闘の訓練や経験を積みまくっているであろう大人八人を相手に真正面から挑まなきゃいけないワケだけれども……コレ、ちゃんと加減できるかな……?


 いやね、繰り返すけど、単純にこの戦場で最後まで立ってる一人になるのはベリーベリーイージーなのデースけれども、そこに『八人全員、致命傷どころか後遺症を負わせるような怪我すら負わせちゃダメ』なんて条件が足されると、もうベリーベリーハードなのデース。


 その理由も単純。

 今までは、原型も留められないってぐらいグチャグチャにしなきゃ起き上がってくるような連中の相手ばっかだったから、手加減なんてゼンゼンやった事が無いんだよ。

 縄文時代のアレが成功したのは、コッチに余裕があって死角からの奇襲だったからこそであって、殆ど偶然や奇跡みたいなものなんだよね、うん。


 でもやっぱり、前にも言ったけど殺人はダメだ。

 父さんや母さんや兄さんに合わせる顔が無くなるからね。


 さて、ホントにどうしたものか――


 そんなふうに考えてる間に五枚の手裏剣達は手の届くトコまで迫っているし、武士達は後衛の壁役一人を残して左右二手に分かれながら向かって来ようとしてるし、後衛達も呪文を唱え始めてるしで、状況は既に動き出しちゃってる。

 忍者なんて、もう数歩も進めば間合いに入りそうだ。


 ヤバい、チョット緩み過ぎてたかも、なんて思いつつ、取り敢えずは手近な刃物をそれぞれ両腕、両翼、尻尾で一つずつ粉々に粉砕。

 凶器はちゃんと処分しないとね……って、自分でやっといて難だけど、鋼鉄を一発で粉砕とか、こんなノリでホントに大丈夫か……?


 と、とにかくっ、後手後手じゃ長引くだけだ!

 よ~し、やるぞ~!

 えいえい、



「――ゴギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」



 景気付けってワケじゃないけど、取り敢えずの咆哮。


 いや、別に格好付けてるワケじゃなくてですね、魔界で雑魚共に囲まれた時とか声に魔力を乗せて思いっ切り叫ぶと雑魚共がビビッて隙だらけに固まるから、人間相手にも効果あるのかチョット試してみたってだけでして……


 ホラ、縄文時代ではクマさんにも効いてたし、何故か連中も『ザ・決死!!』みたいな顔してるし、効いて欲しいなあ~なんて……ん? ラハカ? 何ソレ?



「――ヒィッ!??!!!」

「――――――グゥッ!?!?!!」

「――――――――きゃっ!!!?!!」



 ……効果テキメンだった。それこそ、心配したのがバカみたいに思えるくらい。


 そりゃあ、音なんだから距離に応じた時間差はあったけれど、足元の死体やぬかるんだ血溜りを避けながら踏み込んで来ていた人達も、後ろでブツクサ言ってた人達も全員、男女やジョブの違いなんて関係無く耳を塞いで蹲っちゃった。


 そう言えば、共にやってやった時も、『テメエ、どう見ても耳なんてねえだろ』みたいなヤツですら、みっともなく『ビクゥッ!!』ってなるから、すごーくなあ~。


 にしてもなんか、アレだよな。巨大生物モンスター狩猟ハントするゲームみたいな――って、それじゃ僕がモンスター役って事になるじゃん!? ……やっぱナシだね、この例え。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る