第23話

 ――フヒィ~、っと。

 コレってアレだよね、簡単に纏めるとこのキューブは『魔物が存在する世界』で、あの巨大円柱は『過程はイロイロだけど、結果は全部同じになる』ってカンジのifのパラレルワールドを束ねてるってワケだよね?


 だってさ、ココに居る人達って、さっきも血塗れだったでしょ? で、今も真っ赤でしょ?

 今サラッと見回したカンジだと、確かにその人達が負ってる傷はどれも致命傷なんだけど、その傷に前のキューブで見たのとは全然違うのがあるワケですよ。


 具体的に言うと、前のキューブで見たのは刀とか槍とかで斬られたり突かれたりした『範囲は狭いけど切り口がキレイで、肉体の奥深くにまで届いてる』ってカンジの傷だったんだよ。

 それが、肩から股まで縦に引き裂かれてるヤツとか、金棒で吹き飛ばされたらしいのヤツとかみたいに『強引さが目立つ、力任せでデカくて汚い』ってカンジの傷に置き換わってるんですよ。


 コレってつまり、『先のキューブでは人間同士での合戦だったが、今回は魔物の襲撃によって死亡した』って事で、過程は違っても『この平地で大勢の人が殺された』って結果は変わらないって事でしょ?

 まあでも、『デカくて汚い』ヤツの下に『狭くてキレイ』なヤツが転がってるから、合戦自体はあったみたいだけどね。


 察するに、前のキューブと同じようにココでは合戦が行われていて、その怒号とか悲鳴とか鉄ショッパイ匂いに釣られてが現れたってなカンジなんじゃないかな?


 ……いや、無闇に決め付けちゃうのは早計ってヤツか。

 大体、こんなのは感性任せの強引な帰結でしかないワケだから、もっと他にこの状況を説明できる論理的な最適解ってヤツがあるだろうし。


 そもそも仮に僕の考察が正しかったとしても、世界ってヤツにとってはタカが一つの惑星での出来事なんてどうでもいい事で、さっきのIKUSAとかONIとかにそんな意味とか価値なんて無いかもだし。


 それに、そんな大昔のどうでもいい他人共の生き死になんかに価値があるってんなら、なんであんなに凄い父さんや母さんや兄さんがあんな共に踏み躙られなきゃならねえんだってハナシだ。


 ……なんか、そう考えたらこんな景色なんかに拘泥するのもアホらしくなってきた。


「――、でもまあ、ソナーくらいは試してみよっかねえ……」


 『あんま長居すると~』の戒めをすっかり忘れていたけれど、『まあ、今回の列のキューブはでいっか』なんて答えに落ち着こうとしていたから、長考に掛かった時間なんて忘れて調査再開。

 って言っても、まあ、アレですよ。いつもの『魔力ギュギュッからの~』ってヤツだけどね。


 幾ら魔粒子無しの世界とは言え三度目ともなると手慣れたもので、ブォンッと拡散した魔力は滑らかな動きで平地全体を覆い尽くし、僕の脳裏へハリウッド映画のCGみたいに精密で鮮明な3Dイメージを映し出した。

 はてさて、今回は何が拾えるのやら――


「――ん? 死体が動いてる……?  いや、コイツらって生き残り……? それにしては、ドイツもコイツも血の汚れが全く無いみたいだし、なんか鎧も刀も身に付けてないヤツも居ないか……? ってか、なんで逃げずに戦場のど真ん中コッチへ向かってんの?」


 脳内CGに現れたヌルヌル動く八体の人型達への疑問で首を傾げた僕は、そのまま彼や彼女(こんな武士の時代に女性?)達が来る方角へと向き直った。


 彼や彼女達の居る方角は風下で臭いが分からないけど、パッと見や物音を聞く限りだと、武士っぽい甲冑+刀の男達に、錫杖を持ったハゲで袈裟姿の御坊さんや袴に烏帽子(男)か髪飾り(女)装着の陰陽師っぽい人達、初詣とかで見かけるような白と赤の巫女さんっぽい人を合わせた混合チームのようだ……なんで?

 しかも、その集団を先導してるのは、身軽そうな革の胸当てと頭巾+面頬の忍者っぽい人……だから、なんで?


「……なんか、アレだよな。RPGの冒険パーティを和風に魔改造したみたいな……頑丈そうな武士が前衛、法力とか術とか使えそうな人達は後衛、身軽な忍者は斥候――ってカンジで……」


 現実逃避気味に出てきた下らない戯言を『こんな連中、前のキューブに居なかったハズだよね……?』と、誰ともなく呟いた確認で締めた辺りで、連中もコチラを視認できたらしい。

 先頭に居る忍者が背後の仲間達へ見えるように手を挙げて、そのハンドサインを見た冒険者(仮)一行が足を止めて――って、アレ?

 なんか、この人達警戒し過ぎじゃね?


 前衛っぽい武士三人が既に刀を抜いた臨戦態勢で一行の先頭に居るし、その後ろの御坊さんとか陰陽師とか巫女さんが錫杖やら呪符やら梓弓やらを構えてるし、忍者もさり気なく手裏剣なんて取り出してる。

 そう言えば、探知した時に後衛職の人達がやたらビクついてたような……?


「……もしかして、ソナーに気付いてた……? いや、寧ろ、さっきの退治が目的で、それが潜んでそうな合戦跡地ココへ踏み込んだから臨戦態勢に――って方がありそうかな?」

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