8.セヴィリークゥシュ
コトリ、という地球の少女は、心に傷を負い、それを癒やすため、私のもとを訪れた。
彼女は私と会う度に元気を取り戻していき、今後は三日に一度、一週間に一度、というぐあいに私と会う間隔を明けていくことになるだろう。
今までの人たちがそうだったように。コトリも、コトリにとっての『夢の世界』ではなく、現実へ、帰るときがきたのだ。
これはコトリに限った話ではない。
私は今までにたくさんの地球人と出会い、その心に触れてきた。
人間は個性豊かであり、一人一人がこれでもかというほどに考えていることが違っていたりするから、私は未だ、『カウンセラー』という与えられた役目をしっかりこなせているのか、自信がない。
私の言葉がどのように相手に届き、響くのか。ただ寄り添い時間をともにすることがその心をどのように癒やすのか。具体的なことは未だ掴めないけれど、一つ、思ったことがある。それは、『人間社会は生きにくい』ということだ。
誰もが傷ついてここへとやってくる。
しかし、話を聞けば聞くほど、それを癒やす人があまりにも少ない現状に気がつく。
コトリは言っていた。
人間の限界という天井が見えている状態だから、誰もが解消しようのないストレスに晒されている、と。不安や恐怖でできた天井に押し潰されるその日が近いことを、誰もがどうしようもなく感じていて、それらから目を背けて紛らわすように、傷つくことは横行するのだ、と。
私にはピンとこないのだが、コトリ曰く、人間というのはあまり協力的な種族ではなく、いがみ合い、傷つけ合い、同種族にでも牙を剥く生き物なのだそうだ。
だからきっと、これからも、ここを訪れる人は増える、とコトリは悲しそうに言っていた。
『sequence:カプセル起動。患者名・イーサン』
電子音声、というらしい声に瞼を押し上げる。『覚醒時間までカウントダウン開始』この流れも今日で何回目だろうか。
私は一つ、深呼吸をする。
机を挟んで椅子にもたれかかっていた人形に心が宿って形を作る。
薄く目を開けた彼、イーサンに、私はいつものように「やぁ」と言葉をかけた。
「私はåX�?~ΩF➲。ヒトの言葉ではセヴィリークゥシュというのが近い発音になる。セヴィリー、と呼んでほしい」
笑顔で手を差し出す私に、イーサンは恐る恐るという感じで握手をした。
こうして今日も、私は人の心に触れていく。
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