第2話

 わたしの話をしよう。

 わたしの名前はエリだ。

 面倒臭いことが嫌い。文系で成績は学校では悪く、全国模試では良い。

 要するに学校の授業をあまり聞いていないが勉強は嫌いじゃない。ここでよく学校でも勉強すればいいのにと言われるが、学校でやっているのは勉強じゃないからだ。暗記とかそういうこと。歴史なら暗記は有効、だから歴史の成績はどっこいどっこい。

 学校はイベントを重視するタイプの学校で、わたしはそれが面倒臭い。

 ここまでくると、なるほどわたしは不良かもしれないと思い至るが、別に夜遊びはしていない。帰り道に寄り道買い食いくらいで不良と言われるなら大概の生徒は不良だ。

 髪型に関しては……校則に違反していると言われることもある。面倒臭いのですいませんと謝って通り過ぎる。髪が長いのは苦手だから。バリカンで五ミリくらいに刈った頭は生活指導に不評だ。

 テツヤには実に好評で、これきっかけで付き合い始めた。

 といってもわたしたちはキスをする仲でさえない。テツヤ曰く

「俺ら一緒ならまじかっけえじゃん?」

 よくわからないが体をむやみに触られることもなくただ連む相手ならテツヤは楽しい相手だので、「付き合う」という形ではあるが了承したのだ。

 だがそんなことを説明するのはテツヤもわたしも面倒臭く、彼の頭の悪い後輩の話ではわたしはすでに二回子供を堕ろしている設定だそうだ。

 それはちょっと否定したい。

 それからその後輩の中でもテツヤに気に入られているユウヤというのがいて、彼はとにかく落第ギリギリに勉強をしないのでわたしから少し教えようかと提案したことがある。面倒だが彼は憎めないのだ。

 しかしユウヤは

「あねさんさすがっすね、面倒見いいんだなあ」

 と感心こそすれ(あねさんて)勉強はしなかった。

 あと一年生なのにユウヤは髪をテツヤの真似で青く染めた。

 野球部で坊主頭にしているのに。当然のように青く染めた日に教師にグラウンドでツルツル坊主にされた。


 さてそのユウヤがいつもの昼休みに遅れている。

 屋上は本来立ち入り禁止だが不良の私たちは優良な生徒とともに屋上でクダを巻いていた。優良な生徒は弁当を食べておしゃべり、不良はプラスタバコだ。見つかったことはない。たぶん。テツヤは(私の命令で)禁煙中でわたしは匂いが嫌いだし吸わない。

「あねさーん」

 間延びした声に、弁当箱から顔を上げたらユウヤが汗だくで––おそらく走ったんだろう。野球のユニフォームのまま客人を後ろに従えて来た。

「なんかこの先輩があねさんに会いたいそうです」

 わたしは顔が引きつるのもそのまま、その子の名前を呼んだ。

「はやしさん」

「モモでいいよ」

 林モモは笑顔で言う。ゆるく巻かれた髪はいい匂いを撒き散らしながらわたしの隣に腰を下ろした。

「よかったあ、いつも休み時間見つかんなくって」

 ありがとうねーゆうやくん、と彼女はユウヤに手を振る。手ぶらで何をしに来たのだろうと問いただす前に彼女の桃色の唇が迫る。

「わたしね」

 至近距離ではちみつの瞳が潤んだ。

「エリさんのこと好きよ」

 吹き出したのはテツヤだ。

「なんだよそれまじうける。

 林お前レズだったん」

「そうだよ」

 一瞬場が静まり、ユウヤがひゅうと口笛を吹いた。

「かっこいいっすね先輩」

「いや……まって私は違うから」

 テツヤと付き合ってるしなあと私はぼやく。はちみつが流れ落ちるように涙が溢れるモモの横顔を見、なんとなく後退る。

「でも」

「いやエリは俺の女!」

「黙っててよテツヤ。ごめんね林さん」

「でもわたしとエリさんは運命の恋人なのに」


 あ、めんどくせえ

と、私は思って空を見上げた。見事な秋晴れである。

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ファムファタル きゅうご @Qgo

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