ファムファタル

きゅうご

第1話 面倒くさいの始まり

 その転入生は、かなり痛い子だった。

 高二の一学期が半分ほど過ぎたところで転入してきて、彼女は人好きのしそうな愛想の良いちゃめっけのある……要するにとてもいい笑顔でこう宣言した。

「78万光年先の惑星から来ました。ここの太陽系のことよく知らないのでよろしくお願いします」

 はっきり言ってそのギャグはだだ滑りした。


「それさえなけりゃあ超俺好みなんだけどなあ」

 テツヤは嘆かわしいとため息をつく。

 当然のように彼女は孤立した、わたしのクラスで。わたしはわたしで「不良」として孤立しているのでややこしい。彼女がわたしと仲良くなりたそうにこちらを見ている! なんてことが頻繁にあるのだ。面倒臭い。

 べつにわたしは不良でないのだが面倒臭くて高校イチ不良と噂される(これも誤解のような気がするが面倒臭いので黙る)テツヤに告白されてべつにいいよ、と答えたらクラス中から不良の、なんというか女番長みたいな目で見られるようになった。今時あるのかそんなもん、と思ったが説明するのが面倒臭い。

 面倒臭い人間関係から逃れられるので誤解されたままでも構わないのだ。面倒臭そうなひとと関わることになるのは非常に面倒臭い気がした。

 屋上でタバコを吸うテツヤに髪の毛に臭いがつくからと怒って禁煙させた以来の面倒臭い事態だ。テツヤは赤く染めた髪を逆立てるのに夢中で気づいていないが四階建て校舎の屋上にいるというのに彼女……転入生は校庭からわたし達をチラチラ見上げている。

 髪の毛はゆるふわにセットされ、栗毛の彼女はうっすら化粧もしていて黒髪を短く刈り込んだわたしとはとても同族には思えない。髪の毛が首回りにないせいで寒くて巻いたマフラーの色も、彼女は暖色でわたしのは寒色だ。

(どうして面倒臭いことが好きなんだろう、彼女)

 それがわたしの彼女---モモに対しての印象だった。



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