第2話 山荘旅館 非連続性殺人事件 (8)
5人居た容疑者から3人が外れ、残りは二人となった。
「さて、私にはもう犯人は誰だか分っていますが、念の為に確認しておきますか」
ここにきてようやく、まともな聴取がはじまりそうだ。
まだ何も聞いていないが、うちの先生はもう犯人に目星がついているらしい。
二人のうち、一人は名前すら知らない。
一人はここに来る前に車の中で警官から話しを聞いた、
彼の供述は『部屋から出ていない』と言った直ぐ後で、『外にずっと居て、被害者の部屋には近寄っていない』と発言に一貫性がなく、警官から見た彼の印象は『普通では無い』というモノだった。
普通に考えれば、この矢川という少年が犯人だろう。
だが常人では、この段階で結論を出せるハズは無い。うちの先生の推理を聞く他にはないだろう。
探偵は一つ、大きな咳払いをして、真相を語り始めた。
「では、まず容疑者の詳細なプロフィールを語りましょう。
一人目は
よく授業や部活をサボり、あまり良い話しは聞かない。
過去に近隣の高校生ともめ事を起こして、2週間ほどの
事件時の供述はハッキリとせず、証言に一貫性がまるでない」
ここだけ聞けば、彼の犯行としか思えない。
だが、探偵は犯人と断言を行わず、話しを続けた。
「二人目、
学業だけではなく運動神経も抜群。部活のテニスの試合も優秀で県内で優勝経験もある。
部活では部長を努めており、人望も厚く、リーダーシップにも優れている。
彼は模範生徒として、返済義務の必要の無い給付奨学金を貰っている。
過去にやましい経歴は一切無い」
経歴を読み上がると、また一つ咳払いをして、我々の方へ向き直り誇張した身振りを加え、こう切り出した。
「さて、これだけで犯人が誰か、
我々に、これ以上ないくらいに分りやすく同意を求める。
やはり矢川くんが犯人だろう。
「ああ、そこまで言えば誰が犯人だか、私でも分ったよ」
嵐山警部補も相打ちを打つ。
それに答えるようにうちの先生は大げさなアクションを伴い、強く宣言をする。
「そうです、犯人は『白葉 雄輔くん』あなたです!」
「ええっ!!」
予想とはまるでちがう結論に、一同から驚きの声が上がった。
「何故です、先生? この場合は普通は矢川くんが犯人なんじゃないですか?」
僕は思わず声を張り上げ叫んでしまった。
「えっ、そんなハズはないだろう、ちょっと考えれば解るハズだ。刈谷くんはまだまだ考察が甘いな」
「僕には何が何だか分りません。是非、解説をおねがいします」
僕は答えが分からないので、正解を教えて貰えるように
その言葉は探偵の優越感を大いに刺激し、たいへん気分を良くしたようだ。
口元に笑みを浮かべながら、解説を始めてくれた。
「いいですか、容疑者の少年二人のうち、一人は行動も言動も怪しい、二人目は学業も優秀で、
この場合は、一人目の矢川くんが最初から最も怪しい第一容疑者として疑われるだろう」
「ええ、だれでもそう思います」
「そうだ。だから、よく考えてみるんだ。
第一容疑者がそのまま犯人だったらつまらないだろう」
「……ええ、まあ、確かにそれは話しとしてはつまらないですが。
でもたまに第一容疑者がそのまま犯人といった小説もありますよ」
僕は反論をした。するとしかめっ面をしながら、探偵はこう答える。
「たしかに。クソ小説では、最初の一番怪しい容疑者がそのまま犯人だったという話しもある。
だが、ここでは被害者は感電死というユニークで非常に有意義な死に方をしておられている。
こういった
「いや、でも……」
またも僕は反論をしようとした、しかしうちの先生はその言葉を遮って言い放った。
「じゃあ刈谷くんは、第一容疑者がそのまま犯人の小説は面白いと思えるかい?」
「……いえ、思えません」
「ではこの場合は、誰が犯人ならベストかな?」
「……白葉くんがベストだと思います」
「そうだろう、では刈谷くん後は頼んだ。動機とか適当に決めといて」
そう言うと探偵はもうこの事件に興味を無くしたのか、窓ほうへ歩み寄り、外の景色をながめている。
僕に白葉くんから供述を引き出す仕事を押しつけてきた。
これは…… 無茶振りにもほどがある。
だが、この仕事はいい加減な嵐山警部補に任せる事はできない。
なんとかして僕が白葉くんから自供を引き出さねばならないようだ。
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