第2話 山荘旅館 非連続性殺人事件 (2)
電車を乗り継いで、我々は武蔵四日市駅へと到着した。
駅から外に出てみると、やたらと広いロータリーがそこにはあり、山が近くに見える。遠くにも山が見える。主に山しか見えない。
建物もあるのだが、駅前にも関わらず2階建ての民家がまばらにあるくらいで、かなり寂しい。
周りを見渡してみても商用施設はコンビニが一件と土産屋らしき建物が見えるだけだ。これで人は生きていけるのだろうか?
「さて
そういえば殺人事件という事以外は先生に何も話していなかった。
「ええと、
だだっ広い駅前ロータリーを見渡すと、白と黒でおなじみの車が一台止まっている。
そして車体には警視庁という文字が見て取れる。にわかには信じられないが、ここも東京の一部らしい。
パトカーに近寄っていくと、車の外に警官が二人、タバコを吹かしながら待機していた。
「すいません、嵐山警部補から言われてやって来たのですが……」
そう言うと、二人は直立不動の姿勢を取り、軽く敬礼をする。
「探偵、
車の方へ乗って下さい、詳しい話しはその中で」
「わかりました、では先生。車の方へ」
僕は後部座席のドアを開ける、うちの先生は席に着くと、満面の笑みを浮かべながら警官に向かって話しかける。
「殺人現場はさぞや楽しい場所だったでしょう。私もこれから非常に楽しみだ」
相手の警官は少し
眉間にシワを寄せた警官達は、我々を乗せると走り出した。
車で走り出すと直ぐに風景が変わる。家屋が見えなくなり、自然に包まれた
窓から川を見渡すと水は澄み渡り、山の緑は少し紅葉が始まっていた。
所々でバーベキューを楽しんでいるグループもいたが、駅から離れるにつれてそれも見えなくなった。
道はどんどん山の中へと入っていき、細くなる。
片側には山の岩肌が切り立ち、もう片側は崖下の渓流へと落ちている。
これが旅行なら楽しめるが、我々は殺人事件の依頼でココに来ている。
事件に関して事前にできるだけ話しを聞いておくのが賢明だろう。
僕は単刀直入に話題を切り出した。
「今回の事件は、どういった事件なのですか?」
その答えに少し暇そうにしている助手席の警官が答える。
「おや、嵐山警部補からは話しは聞いていませんか?」
「いえ、全く聞いておりません」
「分りました。では、現在分っている事をすべてお話しましょう」
そう言って警官は語り始める。
「被害者は
テニス部の顧問をしており、部活の合宿の為、このあるき野市の旅館に滞在。
宿泊中にお亡くなりになっています。死因は感電死」
「感電死? それはユニークだな。面白い」
うちの先生が興味を持ったようだ。
死因に面白いも、つまらないも関係無いはずだが……
だが、そんな事を気にしていたら、この人とは付き合っていられない。
「どうぞ、話を続けて下さい」
僕は警官に話しの続き催促する。警官は少し戸惑いながらも話しを続けてくれた。
「ええ、わかりました。
死因は感電死。風呂上がりに電気のスイッチを触って感電したようです」
「それは事故なのでは?」
状況だけ聞くと事故にしか思えない。僕は警官に確認をする。
「いえ、スイッチに感電するよう意図的に細工がしてあったそうです。
しかも鑑識の言う事には、昇圧回路という物が組み込まれていて、通常100Vの電圧が400V付近まで上げられていたようで、おそらく被害者は即死に近い状況だったものと思われます」
「なるほど、ではそう言った、電気的な知識をもった人物が容疑者な訳か。
ある程度は絞り込めそうですね」
「いや、それが困っていまして……」
「なぜです? かなり特殊な技術が必要で、判断材料になりそうな情報だと思いますが」
「ええとですね、被害者の職業は高校教師で、容疑者はその生徒達なんです。
これが普通課だったら問題ないのですが、いわいる電気系の技術高校でして、おそらく容疑者全員が、この技術を持ち合わせているかと……」
「……全員が犯行可能な訳ですか」
これで我々が呼ばれたのも納得がいく、この状況では犯人の特定は難しい。普通に考えれば迷宮入りだろう。
だが、ここにいる探偵ならば事件解決が可能かもしれない。
「ところで貴方たちは誰が犯人だと思います?」
唐突にうちの先生が、助手席の警官に質問をする。しかも犯人は誰かと聞いてきた。
まだ、容疑者が何人居るかさえ教えてもらっていないのに……
「我々は、普段は交番勤務でして、こういった殺人事件には、ほとんど関わった事はないのですが……」
「それでも構いません。
「そうですか、私は
その言葉を受け、となりで運転をしている警官も口を挟んできた。
「私もその少年が怪しいと思います。ひとりだけ落ち着きが無くて、ちょっと異様でしたね」
うちの先生が前列シートに身を割り込むようにして、話しに食らいつく。
「なるほど、なるほど、他の少年達はどうでした?」
「他の少年は落ち着いていましたね。もちろん殺人が起こったので冷静とは言い難いですが、それでも普通に会話はできました」
「その
「ええ、しどろもどろで
「なるほど、その少年が今のところは断トツで怪しい訳だ。貴重なご意見ありがとうございます」
探偵は大変満足した様子で。後部座席に深く腰を据えた。
そして警官達の話しには、もう興味が無いようで窓の外の景色を楽しんでいる。
今の会話で何が分ったのだろう?
もしかしたら、もうその少年が犯人だという核心が取れたのだろうか?
僕には何も分らない。というか、他の容疑者の情報は一切貰っていないので推理をしろというのが無茶な話しだ。
ほどなくして車は側道に入り、しばらく進んだ後に駐車場で止まった。
「着きましたよ、ここです」
どうやら目的地に着いたようだ。
パトカーのドアを押しのけるように開けて、我々は外に出た。
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