第2話
そんなこんなで、明日から夏休みという日になってしまった。俺はというと、先生に言われた言葉はすっかり忘れぐだぐだと過ごしていた。いや、忘れようとしていた。
「で、お前は結局まだ何も考えられてないわけ?」
俺の机の所まで井上が来た。相変わらずうるさい。とりあえず無視しよう。
「…。」
「無言は、肯定ととるぞ。」
無視はできないらしい。
「勝手にどうぞ。」
そう投げやりに言いながら俺はふと、あることに気づいた。やけに、井上の機嫌がいいのだ。ただでさえいつも明るく楽しそうなのにさらに今は井上の体から音符でも見えそうなくらいウキウキしているのだ。
「お前今日機嫌いいな。」
「あっ、分かる?」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔をされた。どうせくだらないことだろう。そう思ったが話をそらすにはちょうどいい。
「分かりやすすぎ。で、何があった?」
「いやーあのな、まず一つ目がこないだやったテストの点数が前よりもよくなったんだ。しかも平均点は下がってる。勉強した甲斐あったなー。」
確かにここのところ井上は勉強を熱心にやってたな。行きたい大学があるとか言ってたっけ?というか、一つ目ということはもう一個何かいいことがあったのか。
「んで、二つ目がー。なんだと思う?」
「いや分からない。」
「なんと、今度ある花火を一緒に見に行くことになったのだ!いいだろ。」
と、言われても花火は見ようと思えば見に行けるものだし。
「それのどこが?」
「えっ。」
井上は驚いているが逆に驚いていることに驚きをおぼえる。
「だから、俺は竹川と花火を見に行けるんだよ!」
そう言われてようやく理解した。しかしそうなると…。
「竹川のこと好きなのか?」
「あっああ。」
顔を真っ赤に染めながらこくこく、と頷く井上。なるほどな。けど井上が竹川のことを好きなのは意外だった。竹川こと、竹川
美久はたしかに可愛いがおとなしい感じのタイプなのだ。井上はもっと元気なタイプが好きなのかと思ってた。
「好きな人か…。」
その呟いた声が聞こえたのか、井上は
「小本はいるの?好きな人。」
と、聞いてきた。
「いない。」
俺は即答した。
「なんだ、つまらないな。ホントはいるんじゃないか?好きな人。隠してそうに見えるぞ。」
といわれた。つまらないとは失礼だと思うが。だが少しだけ動揺しそうになってしまった。俺には好きな人はいない。けれど大切に感じる人はいる気がする。なぜだか名前も顔も思い出せない。けれど心のどこかで俺のことを支えてくれてる気がする。そして、その人の事を思い出そうとするとうまく説明できないような変な気持ちになる。何も思い出せない…けれど完璧には忘れられないような。
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