9 あれ……ない?

「えー、もしもし神様ー」


 もうすでに同僚に電話をかけているような気分だ。……え、流石にしたことあるからな。


『なんじゃ、神の御加護が届いたのか?』

 神様は一瞬で電話に出た。暇さ加減がよくわかる。


「そうですよ。もちろんその話ですよ。なんでお荷物を送りつけてきたんですか」

『そうか、荷物が届いたか。では切るぞ?』


 どうやら『荷物』の概念がかみ合ってないらしい。


「いやいや違いますよ。そっちの荷物じゃないです。なんですかあれ?」

『かわいいじゃろー』


 まるで孫をめでるときみたいな口調。電話越しなのに神様が笑顔なのがよくわかる。


「ええ、確かにかわいいですけど。……じゃなくてなんで天使なんて送り付けてきたんですか? 返品します!」


 思わず本音が漏れてしまったので、即軌道修正。


『……だって、お主にも身近に話せる人がほしいじゃろ。この家で笑わなくなって何年が経つ? わかるだろう、アンジェが来て重く立ち込める空気が変わったような気がせんか?』


 急に重い口調で話しかけられた。なんだこの電話越しに伝わる神々しさ。いや、神なんだけど。

 神様……なんて慈悲深いんだ。そこまで僕のことを! 確かに重かった空気が変わっているような気がするよ。新鮮になってるような気がするよ!


『って言ったら追い出す気、なくなった?』


 なんでそこで全てぶち壊してくんだよぉぉぉっ!

 今は「ズコー」とか言って滑りたい気分だ。


「うん、あえて言うなら、あなたへの信頼がなくなりましたね。では」

『あっ……』


 神様は何かを言いかけたが、せっかくの感動を台無しにされたのを理由に俺は電話を切った。


 ぬぁぁぁぁっ! 何一つ解決してない。

 ……天使のアンジェかぁ。確かに、うん、かなりかわいい女の子だったけど。いや、俺は絶対認めない!



 ピーンポーンと、本日二度目の家のインターホンが鳴る。

 なんだよ実は神様、天使以外のものも送ってたりして。水臭いなぁ。


 期待を胸に扉を開ける。しかし、残念、宅配便ではない。お隣さんだ。


「……なんだ楓か、どうした? 用事か?」

「なんだ、とは失礼じゃない? それは今はいいや。いや、その今日の夜うちに来ないかなーって。いや、昨日クリスマスパーティーできなかったわけだし! どう?」


 よくわからないがどこぞのツンデレガールになっているような気がするのは置いといて。


「あぁもちろん、行k……」


 言葉を発し終える前に後ろからドアを開ける音がした。


「ああ、ソーマさん。シャワーありがとうございました!」


 アンジェがお風呂場からバスタオル一枚で出てきてしまった。それをばっちり見ている楓。あ、もちろん俺もばっちり見ています。……いやしょうがないじゃん。だってお風呂上がりの女の子だぞ? タオル一枚なんだぞ? 見るに決まってんじゃん。

 そして二人の女の子に挟まれ、完全に行き場を失った俺。


 なんで今出てくるんだよー! と叫びたい。いや、隠してたわけでもないのだけれど。


「ソーマさん、この女性は誰ですか?」


 そういいながらアンジェはオレンジ髪についた水分をタオルで拭いていく。ただ玄関にいる女性のことが気になっているのだろう。


「いやいや、そっちこそ誰よ?」


 それに対して、俺が女を家に連れ込んだと勘違いしているであろう楓。物凄い気迫なんですが。

 なんだ今の状況、昼ドラの修羅場シーンみたいになってるんだけど!


「あのー、楓さん。絶賛勘違い中だと思うんですが違いますからね。んな、アンジェ?」


 とりあえず、楓をなだめる。そしてアンジェを見る。

 『さぁアンジェよ、小学三年生並みの頭脳でもしっかり考えてくれよ?』という視線をアンジェに送った。ついでに気持ち悪いウィンクを添えて。


「はい、ソーマさんとはそんな関係ではないです! ソーマさんとは『一線を越えた仲』みたいなものですよ!」


 アンジェは自分で自分の首を絞める発言、いや、俺の首だけを絞める発言をしているのにも関わらず、ヘラヘラと笑っている。最後にウィンクをしてみせる。

 いや、何「うまくやり過ごしました」みたいなウィンクしてるんだよ。全然大失敗してるからな。


「一線を越えた……仲?」


 楓は絶望的な顔をしながらこっちを見ている。目もちょっとうるんできている。

 え、ちょ、涙浮かべないで! さっきあんなに泣いたのに楓の涙貯水タンクはどうなっているのよ。


「ぬぉぉぉぉぉぉう(NO)、いつお前と俺が一線を越えたんだ!?」


 アンジェを楓の死角である場所まで連れていく。


「だってさっき、『ただの天使と人間』の関係から『契約天使とご主人様』に変わったじゃないですか!」


 アンジェはひそひそ声で耳打ちした。耳打ちってエロくね、と一瞬でも思ってしまった自分が情けないのだが。


「いつお前と契約なんてしたんだよ?」


 そんな詐欺まがいの契約書にサインした覚えはありません。こんな信用度ゼロ+ポンコツといつ契約したってんだ。


「でも確かにソーマさんは『アンジェの居候の許可』をしましたよね」


 あれはアンジェが泣くのかと思って、致し方なく認めただけなんだけど……。


「そんな証拠どこにもないから無効ですぅ」


 小学生レベルの発言なのは許してくれ。マイルールだと「バリア」は何されても無効化するんですぅー。


「証拠ならありますよ?」


 アンジェは真顔で言った。その表情は俺の心臓を「ドクリ」と刺した。


「へ、どこに?」


 動揺したのか声がだいぶ上ずってしまった。

 そんな契約いつしたっけ。覚えがないのだけれど。


 アンジェはその質問を終えるとゆっくりと視線を下にもっていく。行きついた先はどうやら俺の第三の足。あらまぁイケない子ね、はしたないですわ。


「いやいや、どこ見てんのさ」


 俺は恥ずかしくなって咄嗟に第三の足を押さえ……られなかった。


「うん?」


 俺は汗だらだらになりながらアンジェを見た。


「はい!」


 対してアンジェは俺を見て微笑んでいる。

 こいつ、絶対天使の皮をかぶった悪魔だ。そう確信した。

 ない……。もう一度触って確認。でもやっぱりない。何度触っても俺の俺は存在しない。


 そ、そんなまさか……。

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