8 同居系ラブコメは全て嘘でした。②
「失礼しまーすっ!」
「ごめん、散らかってるけど、好きなところに座って?」
「おおお、ソーマさんの家は広いんですねぇ」
キョロキョロともの不思議そう見回す女の子。そして言われた通り、ソファーに腰かける。
椅子に腰かけてもなんというか、かなり落ち着きがない。多分俺と同い年くらいなんだろうが小学三年生を見ている気分だ。
「粗茶ですが、どうぞ」
お茶を差し上げるときのテンプレート用語を少しかしこまって言ってみる。ちなみに粗茶と言っても冷蔵庫にあった市販のウーロン茶をコップに注いだだけなのだが。
しかしこんなところで頭の良さをアピールしているあたり、非常に残念なのは言わずもがなである。
女の子はウーロン茶をごくりと勢いよく飲んだ。
「えーと、アンジェ、だっけ? どんなご用件で?」
てっきり青春に役立つアイテムだとばかり思っていたため、これはまったくの想定外だ。
「神の御加護です!」
彼女は鼻高々と言い張る。
「いや、それは知ってるんだけどさ、例えばどんなことをしてくれるの?」
「祈ることですっ!」
即答。
「……は?」
そう言うしか選択肢はないだろう。それってポ〇モンの『はねる』並みに使えないんじゃ。しかもそれ俺でもできるよ。俺も小学校で七夕の短冊に『友達が欲しい』とか書いたもん。……あ、今の無しね。
「…………。食事、掃除、洗濯は?」
「全部できないので、ばつばつばつです!」
アンジェは手を交差させて、俺の目の前でバッテン印を作ってみせる。満面のどや顔で。いや、今どこに誇れるポイントがあったんですかね。教えてほしいです。
「じゃあ他にできることは?」
「ソーマさんの家に居候することです!」
居候……? なんて美しい言葉の響きなんだ。もちろんオッケー……なわけがない。ただのニートじゃねえか。なんで『祈り』だけで居候させなきゃいかんのだ!
「やかましいわ! 神様に電話する!」
一度でも『かわいい女の子と同居系ラブコメ来たぁぁぁぁ!!』とか思った自分をぶん殴ってやりたい。無理無理。何もできないニートと同居とか……。
さすがの俺でも可愛さだけでコロッと行くわけじゃないからな。って何故俺は向こうが自分を好きって状態で話を進めているんだろうか。いつのまに俺はイケメン財閥御曹司に変貌していたんだ。あー恐ろしや。
急いで携帯を取り出し、神様の電話番号にかける。
「ソーマさん、ひどいですっ!」
アンジェは今にも泣きだしそうな顔をして目をウルウルさせている。
いやいやいや、なんで俺が悪いみたいな雰囲気になってるの? ちょっと待って俺が悪いの? やめて、そんな純粋な眼差しで見ないで、失明しちゃう!
なにこの幼稚園生を泣かせちゃったときみたいな気分。
「……わかったよ、もう。その期限はいつまでなんだ?」
あきらめて電話を切る。アンジェさんよ、この御心に感謝したまへ。
「神様からはソーマさんが楽しい青春を送るまで、って言われたんですけど」
ってことは下手したら一生ついてくるの? 神様どんだけ雑に設定してるんだよ。せめて高校終わるまでとかさぁ。
深いため息をせずにはいられない。
「ふぅぅ、とりあえず自己紹介でもしてくれる?」
いや、もう大体何を言うのか推測できるけど一応な。
「はいっ! 天使のアンジェです。ここへは神の御加護で来ました!」
ですよね。トイレの音声案内並みに全く同じセリフ入りました。
しかし最初に聞いた情報とまるっきり同じなのだけれど、疑問が多すぎてどこから手を付けていいのかわからん。とりあえず最初から聞いてみよう。
「はい質問。天使ってなんだ?」
「はい! 天使とは天界に住む神様の遣いのことで、アンジェたち天使は神様に代わって『神の御加護』を遂行するのです!」
天界に住む、作りこまれた設定っぽいんだけど神様の存在を知っちゃっているからなぁ。信じられないとも言えないわけで。
「じゃあ、その『神の御加護』、さっき『お祈り』って言ってたやつはなんだ?」
「それはですね、願いを叶えるお手伝いをするんですよ! ソーマさんの場合は『楽しい青春を送る』でしたよね。この場合だと、アンジェはソーマさんが楽しい青春を送れるように手伝う、ってことです!」
うーん。わかるような、わからないような。嘘です、全然これっぽっちもわかりません。
そもそも楽しい青春を送るための手伝いってなんなんだよ。こればかりは謎のままだ。
「えぇ、うんわかった」
思わず伝家の宝刀『うやむやな回答』が口から滑り出てしまった。
「はい! だからこれからお世話になります!」
嫌です、と言いたいんだけれど今更なんだよな。どうせ出ていけって言っても家に戻ってくるだろうし。これが『詰む』ってことなんだなきっと。
仕方ない……。諦めるしか選択肢がないのか。
「で、早速なんですが、シャワーを借りてもいいですか? 走ってきたので疲れちゃって」
なんかもう勝手に話し進んじゃってるし。早速お世話になる気満々だなおい。
「廊下にでて右にまっすぐ行ったところだ。バスタオルはお風呂場にあるからそれ使え」
「ありがとうございます!」
そう言うとアンジェはお風呂場へ小走りで向かっていった。
さてと、うるさいお荷物さんがいなくなったところで状況整理でもしましょうか。
プリンターからA4の白紙を取り出し、今まで起きた事象を書き出してみる。
《死にました、神様に会いました、生き返りました、天使が来ました》
あれ、俺っていつ変な宗教に入信したんだっけ。……じゃなくて。
だめだ意味が分からない。加えるならば自分が何を考えているのか意味が分からない。しかも頭悪い子みたい。というかまずツーフェイズ目で常識外なことが起きているんだが。
というかまずあれは天使なのだろうか。新手の詐欺だってこともあり得る。だって常識の範囲外だし。そうだよきっとそれ。ただのアニメのコスプレした女の子にしか見えなかったし。
とりあえず、神様に電話しとくか。
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