7 同居系ラブコメは全て嘘でした。①

 病院を出て、楓と昼ご飯を近所にあるファミレスで食べた。そのあとスーパーで買い物にも付き合わされたため既に時間は午後の二時半。


 ここは幕張駅から割と近めの閑静な住宅街。そして我が家の目の前。


「寂しくなったらいつでも来なよ?」


 隣の家の玄関先から楓が実家のおふくろ感満載で心配してくる。買い物袋を提げている様子は、まさにそれだ。


「じゃあ、また今度」


 そう別れを告げると自宅の鍵を差し込み、俺は誰もいない静寂の家に入っていった。


 まっすぐ洗面台に向かい、手を洗い終えるとリビングへ行く。


「どうしよ」


 俺は誰にも届かないと知っていながら呟いた。


 また、このだだっ広い我が家へ帰ってきたのだが……。やはりやることがない。アニメは――あー、昨日のはとってないんだわ。じゃあ、新刊のラノベは――昨日の昼に全部見たんだった。二回目ってのもあるけど、正直今はそうしたい気分じゃない。


 後は――ただ『神の御加護』を待つだけか……。うん、それに決定。


 暇だしまだ『神の御加護』も届かないし、テレビでも見るかな。


 リモコンの電源ボタンをおしてスイッチオン。


 そこには昨日の事故のニュースが流れていた。


『昨晩、千葉県千葉市の〇〇町大通り交差点で大型トレーラーが通行人をはねる事故がありました。トレーラーは男子高校生一人をはねた後、工事現場にぶつかり間もなく停止。男子高校生と作業員は軽傷でしたがそのあと搬送されました。警察の調べによるとトレーラーの運転手は「意識を失って何も覚えていない」と供述しており、今も警察は捜査を続けています』


 死者がいなくてよかったなぁ、と心からそう思う。


 いや、そんな慈悲が深いとか俺の性格が超いいとかじゃなくて。もしいたら自分だけ生き返っちゃって申し訳ないし。


 追突した先が工事現場ではなかったら……。考えるだけでも身震いがする。



 今度はピンポーン、と俺の過去の思い出を邪魔するように、空気の読めないインターホンが鳴った。


 ああ、神の御加護が届いたんだな。というか俺の魔法陣説は余裕で消えたな。まさか普通に運送してくるとは。裏の裏を返してくるあたり、さすが神様。マジリスペクト。


 ちなみにこんな広い家に住んでおきながら映像付きインターホンではなく、音を鳴らす機能しかついていないものなので外の様子は確認できない。


 スマホの画面に表示された時間は『14:45』。ってまだ十五分早いじゃん。でもまぁ、そんなもんか? 一応早いに越したことはないからな。


「はい、今行きまーす」


 急いで玄関の方へ小走りする。自慢じゃないが家が広いと、こういう時大変だったりする。あと掃除とかね。


 えーと、受領印に押すハンコを準備して、と。


 『神の御加護』に期待しながらゆっくりドアを開ける。


「……ぅえ!?」


 思わずそんな気持ち悪い声を出してしまった。ついでに俺には全くの予想外のことが起きて一瞬凍りつく。


 配達会社がク〇ネコヤマトでなく日〇郵便が来た驚きでもない。いつもネットショッピングはAm〇zonなのに伝票を見たら楽〇市場だったという驚きでもない。というかいちいちそんなことで驚かないけどな。


 玄関開けたらサ〇ウのご、ゴホン、……女の子がいた。


「柊城聡馬さんですね? 初めまして、アンジェと申しますっ!」


 アンジェという名前の彼女は俺に名刺らしきものを渡してくる。多分何かの勧誘だと思えわれる。うーん、推測するにヤバい店。こんな真昼から接客とは……えげつない業界だな。


 てっきり『神の御加護』かと思ったわ、そう言えばまだ配達時間でもないな。


 しかし、この子は俺んちに何の用だ? 


 オレンジ髪のボブカット、そしてアニメのコスプレ美少女らしき女の子が玄関に立っています。……ついでに言うと結構かわいかったりする。そしてデカいスーツケースを持っている。もちろんコスプレパーティーの開催をしたわけでもありません。さて、なんて答えれば正解なのでしょうか。


 とりあえず、人違いっぽいので断りましょうか。ちょっと残念ですけど。


「あ、そういうサービスは頼んでないんで、お帰りくださーい」


 そのまま玄関の扉を閉めようとする。しかし、無理やりにでも入ってこようと、扉を引っ張る女の子。


 なんでなんで? ってか、力つよっ!


「か、『神の御加護』をしに来たんですっ!」

「へっ……?」


 思わず驚きでドアノブを離してしまった。そしてその反動で大きく後ろへ飛ばされる女の子。


 なんだって? 今『神の御加護』って言った?


「いててぇ」

「ま……まさか『神の御加護』って君自身!?」


 倒れてしまった女の子に手を貸し、「ごめん」と言いながら起き上がらせる。


「はいっ!」


 そう言うと女の子はまた名刺っぽいものを差し出してくる。胡散臭いものの、彼女の名刺を受け取った。そしてそれを確認してみる。


「ええと、『役職:天使 名前:アンジェ』」


 て、てんし? ああ、設定ってやつ? うんうん大事だよね、そういうの。俺は否定しないぞ……。かわいいなら全然許せる。


「はいっ! 天使のアンジェですっ!」


 アンジェは元気よく返事をする。


 うん、どっから見ても人間なんだけど。ほら、天使特有の羽とかついてないし。こだわるならそこもだなぁ。見てて……ちょっと、いや、だいぶ痛いかも。とりあえず一緒には歩きたくないくらいかな。


「……んまあ、とりあえず上がって」


 贈り物がまさか人だったとは……。神様は一体何考えてるんだか。


 いやしかしかわいい女の子が家に転がり込んでくるこの超展開は、まさか。いや、きっとそうだ。



 ――――同居系ラブコメの予感きたぁぁぁぁ!!


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