第4話

 六月十二日(火)


 今日は黒瀬さんの機嫌が悪くて大変だったけれど、どうにか懇願してお金の期日を明日に延ばしてもらった。罵詈雑言を吐かれた上に金額が五千円に増えてしまったので不安だけれど、八雲先生を信じるしかない。



 今日も今日とて私は保健室にいた。いじめは相変わらずだけど、この時間のことを考えると最近はあまり辛くない。


「一日待ってもらえるみたいだね」


「お願いするの大変でした。黒瀬さんの機嫌が悪くて」


「体育館の窓ガラスでしょ?黒瀬さんが遠藤くんを見るためにいつも陣取る場所の、上の窓が割れちゃったから」


 ガラス片が落ちている危険があるために、今日はその場所が封鎖されていたのだ。スポーツに汗を流す遠藤くんが見られない、という理由で黒瀬さんは一日不機嫌だった。


「よくご存知ですね」


「その窓ガラス割っちゃったの、僕だからね」


 あっけらかんと答える八雲先生に対し、驚いて口に含んだお茶を吹き出してしまいそうになった。因みに今日のお茶はルイボス茶。健康、美容の維持に効果があるそうな。


「でも、わざとじゃないよ。お昼休みに男子生徒とサッカーしたんだけど、革靴だと思ったよりボールコントロールが難しくて」


「次はうまくやる」とキックの素振りをするあたり、あまり反省していないようだ。


「ガラス片の片付けもバッチリ、もう封鎖もしてないから、明日は大丈夫だよ」


 キメ顔で佐藤先生のクッキーを頬張るが、そもそも問題はそこではない。


「お金の問題が解決してないのですが…また延ばしてもらうんですか?」


「それは得策じゃないだろうね」


 きっぱりと否定される。


「じゃあどうすれば…」


 私の不安を振り払うように、八雲先生は言葉を放った。


「大丈夫。この世は因果応報だから」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る