第5話


 六月十三日(水)


 体育の時間が終わり教室に戻ると、吉田さん達数人の化粧品が無くなっていた。その犯人が黒瀬さんではないかと噂されている。

 体育の間、彼女だけ体育館に居なかったからだ。その真偽はわからないけれど、因果応報の言葉が私の胸に強く残っていた。



「お金貸さなくてよくなったみたいじゃない」


 相変わらずの八雲先生。今日はごぼう茶。


「それどころじゃなくなったんです」


 私の心境は複雑だ。


「先生か佐藤先生は、黒瀬さんのアリバイを証明できるんじゃないですか?」


 黒瀬さんが体育の時間に居なかったのは、あの場所にわずかに残っていたガラス片で手のひらを切ってしまい、治療のため保健室に行ったからだった。


「佐藤先生は今日学校にいらしてないし、僕が処置をしたけど僕も用事ですぐ保健室から出て行っちゃったからねぇ」


「用事ってなんですか?」


「雑草をね、焼却炉で燃やしたんだよ」


 八雲先生を疑うわけではないが、やはり胸中の違和感は消えない。


「もしかして疑ってる?確かにいろいろとタイミングが重なったけれど、あくまで偶然だよ。ガラス片が残ってたのは、ほんとに申し訳ないと思ってる」


 ガラスが割れたこと、その欠片で怪我を負ったこと、治療で空いた時間に紛失事件が起きたこと。偶然ならすごい確率だと思う。


「因果応報なんだよ、きっと」


 平然と言う八雲先生が、少し不気味に見えた。


「とにかく、これでいじめられることはなくなったんじゃないかな」


 確かにこの日を境に、私へのいじめは完全になくなったのだ。


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