◯今

そして、今、僕は放課後の教室で、彼女と2人だ。


状況は危機、とでも言おうか。


「ねぇ、良い加減にさ、本当の姿にしなよ。」

はあ、彼女は僕の中に気づいている。

でも、僕はどうしても、仮面を外さない。

いや、外れない。

外したら、争うかもしれないし、周りとも…。

「本当の姿って、これが本当だけど。」

「嘘ばかり言わないで、だって、覚えてる。」

「何を?」

「入学した時から、にこにこしてるけど、

1人でいる時、色々ボソボソ言ってるの、見つけたし、文化祭の準備の時、すごく嫌そうに作業してたのを見た。コーラスコンクールの練習の時は、

なんだか、本気に見えたよ。だから、私も本気になった。それから、修学旅行は、その…あれが、

本郷くんでしょう?…助かったの。

隠す必要なんてないんじゃないの。

だって、私、…。」

そこで僕は言った。

「いや、さっきから、本当の姿って何?

色々わかってました風に言わないでくれるかな。

僕は僕さ、だから、心配…」

''パァアン!!''

瞬間、僕の頰が音を立てた、と同時に目の前が揺らいだ。

''パリーーーン!''

何かが割れる音がした。

そして、

''パラパラパラ''

''ポタ、ポタ''

何かが崩れ落ち、滴った。


これは、仮面、のかけら。なみだ…。


「私は、本郷くんのおかげで、助かったの。

本郷くんの本当の姿が、私を救ったの。

本郷くんが、本郷くんが、私を救ったの。

おりちゃんだって、感謝してた。

それに、覚えてないと思うけど、お祭り、あったでしょう?

私は本郷くんが来ると言っていたから、行くことにした。

それでも、中々話せなくて、彼の押しが強くて、

お祭りを楽しめてなかったよ。

でも、私は、良い顔をした。

楽しそうにしていた。

私も、本当の気持ちを隠していた。

だから、殻を破りたかったの。

実際に、その、私は、告白することができた。

だから、変われた。本郷くんがいたからなの。

なのに、その本郷くんが、ずっと本当の姿を隠していたら、

私は、なにになっちゃうの、わからないよ。」

彼女もまた、仮面をしていた。

お祭りの時、本当は僕を…、それに気づかなかった。

仮面をつけていれば、気づくわけがないんだ。

そして、僕の仮面は、ずっと取れなかった仮面は、

彼女の掌によって崩れ去った。

「そうだったのか。

僕はずっと争いを避けてきた。

喧嘩などしたくはない。

それに嫌われたくないんだ。

だから僕は相手の良いと思うように振舞っていた。

そうしてゆくうちに仮面ができていた。

そして、外せないものになっていたんだ。

けど、今は、もうない。

割れた。君のおかげで割れた。

なんだか気持ちが楽になったよ。」


「うん、やっと会えたね。…はじめまして。

本郷悠介くん。」


はじめまして、本郷悠介。

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